第2話 ファーストピース

最初のカケラが見つかったのは、マーズ計画の途中だった。

火星への初の有人着陸を成しとげるために、国家の威信をかけた、そのプロジェクトは、多大な資金と人材をつぎ込んでいた。


何回目かの無人探査機の派遣の途中にそれはあった。無人探査機の映像を解析した結果、見つかったのだ。大きさは日本の畳程度。厚さは一升瓶を立てたくらい。表面はフラットだが、裏側はでこぼこしている。黒曜石の様な材質。何らかの信号が出ているわけでもないのに、広大な宇宙の片隅で、それが発見された理由は、表面に青白く光る文字のようなものが彫り込まれていたことによる。その光は、太陽の光を反射しているのではなさそうだった。


当時の、NASAの科学者達は、次の探査機の1台をそれが通過するであろうコースをねらって飛ばすことにした。まあ、元々何度も飛ばすつもりのコースだったので、それほど計画外のプロジェクトではない。すんなり許可が出た様だ。2番目の探査機は、計算通りの場所で、それに遭遇することができた。明らかに人工物であるとの結論に至ったが、人類の過去の歴史において、こんなところに手が届いたプロジェクトは、数えるほどしかない。発見されたそれは、そのどれとも適合している様には見えなかった。


 ここで、火星への有人着陸のスケジュールを遅らせて、それを回収するか。それとも、当面放っておくかの議論になった。『ロシアや中国の軍事衛星の残骸かもしれない。だとすれば、膨大な情報が得られる可能性も高い。』というトライデン大統領の決断により、多少の計画の遅れよりも、その未確認物を回収を優先することになった。不測の事態の発生も考えられることから、有人機による回収が計画された。結果、かなりの大掛かりなプロジェクトになったが、世間的には『航路の途中の隕石に、火星への旅路をサポートする施設を設置する。』と喧伝された。地球からそれらしい施設を運び、空になった帰りの宇宙船にそれを格納して帰って来た。


 カケラの回収作業は、秘密裏に行われたため、作業そのものが、どういう手順でおこなわれたのか公表されたのはずっと後だった。回収されたカケラは、そのまま、秘密裏に地球に運び込まれ、秘密裏に研究される予定であった。しかしながら、結論としては、そうはならなかった。アメリカの情報管理の甘さが原因だ。それが記された文書の写を、自宅に持ち帰っていたトライデン大統領が、うっかり居間のテーブルの上に放置してしまったのだ。何事もなく、文書を回収できてたらうっかりで済んでいたのだが、大統領の息子(当時まだ小学生だった。)が、自分の教科書等に紛れて、持ち去ってしまったらしい。そこから先が、どういう経路を辿ったか、結局わからずじまいだが、その書類の写真は、詳細な説明付きで、世界に公表されてしまった。


 そもそも、当初考えられていた、軍事衛星の一部である可能性は、早くから否定されていた(黒曜石の様な材質で、そんなものを作る国があるとは思えなかったからだ。)。ならば出所と用途がわからない。地球外の生命体の存在は、まだまだオカルト扱いだった。宇宙規模の偶然の産物でたまたまこの様な形状、模様が刻まれたのではとの推測が、当時最も有力な見解だった。発見する時に、目を引いた文字の光も、地球に帰る頃には消えていたのも理由の一つだ。なんらかの化学反応が起こっていたのか、何かの光を反射していたのかわからない。だから、機密性のレベルとしては、『偶然拾った珍しい隕石』レベルだったらしい。こんな物の回収に巨費を投じたうえ、それが公になったのだ。政権内でのトライデン大統領への風当たりは強くなっていた。


 世間は、そんなアメリカ合衆国の『やる気のなさ』を尻目に、別の盛り上がりを見せた。かなりすったもんだはあったが、結局、カケラは、万国博覧会の目玉として公開されることになった。私もそうした一連の報道を興味深くチェックしていた一人だ。公開されると知って、ぜひ実物を見たいと思いチケットを購入しようとしたが果たせなかった。


期間中、のべで1億人以上の人間が、世界中から詰めかけた。

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