署名

yasunariosamu

第1話 署名

「署名する際の言語は、万国共通語である英語で記されるべきである。」

アメリカ合衆国の代表が話し始める。イギリスも同調する。

「英語が、万国共通語なんていつ決まったんだ。」中華人民共和国の代表が即座に反発する。

「ここは、使用している人口が一番多い中国語で署名するべきだ。」

「そんな単純な話ではない。向こうさんからは、この署名で使われた言語を共通語として登録するとの通達があったんだぞ。この署名に使われる言語は、世界の流れを変えてしまうかもしれない重要なものだ。」インド代表がいった。

「大体、このピースの文字を一番多く解読した国の言語が使われるのが正しいのではないか。」ロシアの代表が続ける。

「国の中で、使う言語さえ統一できてない国は黙っててもらおうか。」韓国代表が怒気をあらわに声を上げる。

「いや、待ってくれ、代表して署名する人間は、向こうから指定されている。日本人である彼が、署名するのだから、日本語で書いてしかるべきだろう。」日本代表が意見をいった。各国代表は、皆スルーだ。聞こえないフリをしている。

AIによる同時通訳で、意思の疎通に問題はないが、これだけバラバラだとどうしようもない。署名に使われる言語はひとつだけとの指定があるので、得意の複数言語表記もできない。どうしても一つに絞らなければならない。

サイトウタカシという私の名前を一文字づつ別の言語で表記するというとんでもない案も出たが、それでは、何語かわからなくなると、却下されている。


こんなことに関わることは、『やめときゃよかった。』と心底後悔している。

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