第4話 粉雪

 少年は私の言葉を遮るわけでもなく、隣に座って只頷きながら聞いてくれた。

「お姉さん。とても辛かったんですね」

「……うん」

 少年の声は、どこか私の心を優しく包み込んでくれるようなものだった。


「でも、僕はお姉さんがキラキラしているように見えましたよ……」

「ッ!そんなこと無いよ」

 少年の言葉に驚き、反射的に否定してしまった。だって、私よりキラキラな人はもっといっぱいいる。私なんかと比べ物にならないくらいね。そう少年に伝えると彼は今にも泣き出しそうな顔をした。

「お姉さん」

「なぁに?」

 少し申し訳ないな、と思いながら聞き返すと、少年は自分のマフラーを外し、私にそれを巻いてくれた。


「え?」


「僕はね、人間はみんなキラキラしていると思うんですよ。只、みんな〖光り方〗が違うから、他の人の光にばかり目移りしてしまって、自分の光に気づけないだけなんです」


 本当に勿体ないです、と少年は胸に手を当てて目を伏せる。


「……ひ、かり?」


 光だなんて、等の昔から無いと思っていた。捨てたと思っていた。


「そうです。〖光〗。お姉さんは、見ようとしていないだけ。自分を見て下さい」


 じ、自分を?


「貴女にも、貴女の光があります」

 だから、だから諦めないで下さい。そういって、少年は天使のごとく微笑んだ。


 そっか、そうだよね。まだ諦めちゃ駄目だよね。


「……あ」

 ありがとう。

 そう、彼に伝えよう。

 今まで忘れていた事を思い出させてくれて。


「──え?」


 言いたかったのに。言いたかったのに、彼はそこには居なかった。

 少年が居た場所は、何もない只の空間となっている。


「……う、そ?」

 本当にあの子は、何者だったのだろうか。

 不思議な子だったな。


 でも、マフラーは残っている。

 これだけで、少年が本当にいたことが、夢ではなかったことが分かる。



「暖かいなぁ」


 この無機質な冷たい都会のなかで始めてかもしれない。こんな暖かさに触れたのは。

 そう思い、マフラーに手を触れると手に、小さな小さな氷の結晶が舞い降りた。

 その結晶は、直ぐに溶け水になってしまう。


「雪……?」

 見上げた空からは、はらはらと白い粉雪が舞い降りてきていた。

 ホワイトクリスマスかぁ。


 そう思い、手のひらの上に舞い降りてくる粉雪を乗せてみた。


────ッサ

 やっぱり直ぐに溶ける。

 手の上には水滴が残った。




『ありがとう。思い出させてくれて。』


 私の口から、無意識にそんな言葉が出る。


 

 手のひらの上の水滴には、今までとは違う希望に満ちた自分の顔があった。


 私が輝くまで、もう少し。

 頑張ってみよう。

 

 自分の〖光〗探そうかな。


 

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