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 モペッドが四台も連なると、流石にうるさい。バタバタバタバタと、小型のエンジンが忙しなく稼動する音は、ゲート守衛のタイザの耳まで届いていた。


「おい見ろ、ギャングが来たぞ」タイザの相棒が笑って言った。

「今日はエミリちゃんも一緒か、なら安心だな」

「昨日はご迷惑おかけしました」

「別にご迷惑って程じゃないさ、ただ、ルールはみんなの暮らしを守る為にあるから、一応ね」


 門で入出管理の記録簿にサインをして、お守りの鈴も新たに貸し出してもらうと、四人は急いで廃工場へ向った。モペッドで進めるのは、麓と工場のちょうど中間地点の辺りまでで、目印にちょうどいい大きな岩がある。モペッドをそこに駐め、そこからは獣道を逸れ、工場を目指した。

 廃工場に到着すると、四人は荷物を降ろし、辺りに視線を走らせた。

 背の高い草原では穏やかに花が揺れるのどかな景色に、少女の姿はどこにもなかった。


「……さすがに、居なくなっちまったかな」


 エルマーは腰に手を当て、残念そうに肩を落とした。


「お昼、回っちゃったもんね」テムもがっかりした。

「あんたがモタモタしてるからだよ」ココロはエミリの横腹を肘で突いた。

「だって山道なんて、走ったことなかったんですもの」

「夜のうちに移動したかもしれないな」


 エルマーは探す素振りは見せず、その場に腰を降ろした。

 少女を探すことは、四人ならばじゅうぶん出来た。

 見つけることが難しくても、そうすることはできた。

 けれど、エルマーは探せとは言わず、その場で考えこむように腕を組んだ。


「帰る?」


 ココロが訊くと、エルマーは「んー」と生返事して、両手で顔を挟み、もみ上げを上から下へと何度も撫でた。踏ん切りがつくまで少し探してみようかともう一度辺りへ目をやると、不意にリンと鈴の音がした。振り向くと、工場の影に幽霊のように立つ少女の姿があった。

 どうやら彼女は、律儀にここで一晩を過ごし、待っていたようだった。

 エルマーは立ち上がると、「はじめるぞ」と号令をかけた。

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