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 エミリの傷の手当をさっと済ませ、二人は待ち合わせ場所へ急いだ。

 居住区まで来ると障害物となる車や人の往来が増え、エミリの運転は危なっかしさを極めた。

 先を行くココロは後ろから聞こえてくるエミリの悲鳴と、ブレーキ音、車のクラクション、通行人の悲鳴と、繰り返し耳にしたが構わずに進んだ。


「ったくもう、あんたのせいで遅れちゃったじゃんよ!」

「仕方ないじゃありませんの! エルマーくんに格好悪いところ見せたくないんですものぉ!」

「あいつはそんなこと気にしないよ!」

「彼が気にしなくてもわたくしが気にするんです! あなたにわたくしの気持ちはわかりませんわ! このガサツメカ娘!」

「なんだとこの妄想コスプレ女! よそ見しないでついてこい!」

「上等ですわ!」


 言葉通り、エミリも目的地へ到着する頃にはモペッドの勘を掴んだようで、かなり自在に振り回すようになっていた。

 ただ、約束の場所に到着した頃には、エルマーとテムの二人はベンチの座面に背中を乗せ、背もたれに首を預けて座るという、いかにも「待ちぼうけ」を食らった姿で待っていた。二人の前へ滑り込むように後輪をスライドさせながら停車すると、エルマーが出かかった文句を飲み込み、驚いて目を丸くした。


「エミリそのモペッド……ココロお前、造ったのか!? 一日で!?」

「急かされたの。お陰で遅刻した」


 そう言ったココロの尻を、エミリがぺしんと叩いた。


「この馬の尻を叩きましたのですけれど、とんだ駄馬でそれはもうノロノロと」

「ノロいのは騎手のあんたでしょ、乗れるようになるのにどんだけかかったと思ってんの?」


 ココロはエミリの尻を叩き返した。

 テムはできたてほやほやのモペッドに興味を示したが、想像よりも傷だらけで、首を傾げた。


「エミリ姉ちゃん、転んだの? 平気?」

「優しいんですのね、けれど安心してください、試練に傷はつきものです」


 エミリは腕を組んで堂々と胸を張った。


「泣かなかった?」

「転んだくらいで泣いたりしませんわ、わたくしは気高いですから」

「でも俺は一度も転んだことないよ」


 テムが得意げに言うと、ココロがだよねーと笑った。


「エミリめっちゃヘタクソでさ、練習させなかったら今頃お医者さんのところだわ」

「はじめて乗ったんですもの! それよりあなたの思いやりのない先導はいかがなものかと!」

「でもお陰ですっかり上手になったじゃん」


 エルマーは傷だらけのエミリとモペッドを見ると、遅刻の文句を飲み込んで溜息を吐いた。


「事情はわかったけどさ、今日の遅刻は痛いぞ、あの子、居なくなってっかも」


 エルマーが言うように、例の感染者の少女が律儀にあそこで待っている保障はない。


「ま、その時はその時でしょ」


 ココロは言った。

 本心だったが、エルマーは少し不満げに唇を尖らせた。


「ちょっとは悪びれろよ」

「悪びれない」


 あたしは悪くない。


 今回の遅刻に関して、ココロは自分の責任は一切ないと、断固とした態度をとった。

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