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山を降り、エミリをアパートまで送った。
エミリの家は、そのキャラからおおよそ似つかわしくないほど普通だ。というか、居住区にあるアパートの一室だ。洋風の外観には彫刻も施され、中庭もあるお洒落な作りだが、特別珍しいわけではない。普段お嬢様言葉で話すものだから、ブラウニーにいる子達はエミリが中央にある管理人が暮らすお屋敷に住んで居ると勘違いしているが、実態はこれだ。
知ったらきっとがっかりするだろうな、と思う。
ただエミリは、おおよそ自分で作った設定とは程遠いアパートを恥じたりすることはない。
「ほら、着いたよ」
「ご苦労様です。ちょっとお尻が痛いですわね」
「まあ後ろは荷台だからね、荷台」
エミリはお尻を軽く触って、エルマーやテムの視線に気づくと恥らうように手を避けた。
エミリには明日必要なものを口頭で説明した。
「汚れてもいい服装で、手袋とかマスクとか、あとゴーグルって持ってる?」
「もちろんです、クローゼットにお洋服は一通りありますのよ、ご覧になっていきます?」
「あるならいい、ご覧にならない、とにかく明日ね」
「時間は?」
「なるべく早い方がいいでしょ、あの子もいつまであそこにいるかわからないし」
「じゃあ九時くらいには集合しよう」エルマーが言った。
「わかった。エミリもいい?」
「承知しましたわ。それでココロさん、わたくしのモペッドは?」
「わかってるって、約束は守るから。それにいつまでも置いておくと邪魔だし」
「その言葉、お忘れにならないでくださいね」
ココロがしっかりと頷いて見せると、エミリは満足げに笑んで、アパートの入り口の鉢植えに水をやっていた老婆に「ごきげんよう」と挨拶して、家へ戻っていった。
「そういえば、昨日の爺さんどうだった」エルマーが訊いた。
「お爺ちゃんと飲んで酔い潰れてた」
「なんだ、じゃあまだ話せてないのか。晩年の冒険家と」
「帰ったら訊いてみるつもりだよ」
「そうか。もう臭いは解決したか」
「そういえば洗濯物、洗濯機突っ込んだまんまだ」
「じゃあ急いで帰らないとだな、また明日な」
「わかった。またね」
ココロはモペッドのエンジンを始動し、家路を急いだ。
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