22
「仕事しろよ!」
エルマーが叫ぶように呼ぶと、顎鬚を生やしたガンツが嬉しそうに笑って腰を上げた。
入出管理の通常業務は慣れたもので、会ってちょっぴり世間話をするのがいつもの流れだ。
リッキーが差し出したボードに三人はサインをして、時刻を記入した。
「はいおっけー」リッキーはチェックしたボードを放った。
「久しぶりじゃないか、三人が揃ってこっちに来るのは」ガンツが口角をあげた。
「今日はテムにどうしてもってせがまれちゃって」
ココロはちょっぴり困った風を装った。
「根負けしたか」
「そういうこと」
そういうことにしてある。
テムが遊んでとせがまれ、ココロとエルマーが仕方なく付き合ってあげているという
テムも、「ずっと約束してたんだよ!」と調子を合わせた。
「よかったな。この間は一人で来てたもんな」リッキーはテムの頭を撫でた。
テムは定期的に一人で森の中へ入り、感染者を捕らえる為の罠をチェックしている。その罠は誰も知らない場所にある。ココロやエルマーがブラウニーで働いていた頃は割と頻繁に来ていたのだが、その時も冒険ごっこと偽って四六時中、感染者を探し回っていた。
「ま、今日はお兄ちゃんお姉ちゃんも一緒だし、楽しんで来いよ」
「うん」
「そんなことよりエルマーよ」
ガンツは困った息子でも見るような目をエルマーに向けた。
エルマーも小言を言われるのを察して視線を逸らし、溜息を吐いた。
「なんだよ」
「お前また仕事辞めたんだってな。守衛の仕事も半年で辞めちまったし、あんまりふらふらしてるとろくな大人にならないぞ、こんなふうになりたいか?」
ガンツがリッキーを指差すと、リッキーはどういう意味だと顔を顰めた。
「今その話はいいって、またすぐ別の仕事探すし」
「お前にその気があるならいつでも戻って来い。その時は根性もたたきなおしてやる」
「大きなお世話だって」
エルマーは頭を撫でてきたガンツの手を払った。ガンツは鼻で笑うと、「おおそうだ。ちょっと待ってろよ」と守衛室へ戻り、単発式ライフルを手に戻ってきた。
「ほら、これ持ってけ」
「ライフル?」
差し出されたライフルを、エルマーは渋々受け取った。
「使い方は教えたろ」
「そうじゃなくて、なんでこんなもん持たせるんだよ。狩なんてする予定ないけど」
「いや、近頃多いらしくてな」
「……
「ああ、春だしな。連中もこの陽気に浮かれてるんだろ」
「それ関係なくないか」
「真面目な話、出入りしてる配給車や産廃車やらのドライバーがよく見かけるって報告があってな。北門側に山あるだろ、ちょっと前に俺達もあそこに入って行ったんだが、たしかに増えてた。今まで見たことないくらい、つっても広すぎて、まばらにって感じだけどな」
「あそこでまばらに見つかるって、結構居るってこと?」ココロが訊いた。
「ああ、数えちゃいないけどな」
「どうしたのそれ」
「確認して戻ってきたよ、そもそも俺達は、許可なく連中を撃つことは禁止されてるからな」
「大丈夫なの?」テムが訊いた。
「なに心配ないさ、どうせ奴らにこの壁は越えられないし、俺達が出入り用に使ってる扉だって開けられん」
「それでライフル?」エルマーが訊いた。
「念のためだ。一応は大人になったんだ、いざとなったらそいつで二人を守ってやれ」
「許可なく撃てないのに?」
「時と場合によるだろ」
「だとしても、ゾンビ相手にライフルは大げさだって」
「だな、まああったかくなってきたし、獣も増える頃だ。念には念をだ」
「そういうことなら、まあ借りとく」
ココロとテムは目線だけをエルマーに向けた。
エルマーは二人の視線を気にしつつ、ライフルの弾倉を抜き、金色の弾丸を親指で触った。
弾は一発、念のためというのも頷けた。実際、このライフルはハンティング用で、ガンツ達が持つ自動小銃に比べれば骨董品だ。銃の教練用にも使われていて、エルマーが一時守衛だった時、一番触った銃だった。
「なんかエルマーかっこいいじゃん、手馴れた感じ」
「おいおいやめろよ」エルマーは弾倉を戻し、スリングを肩にかけた。
「兄ちゃんかっこいい!」
「まあそれほどでも、あるかな?」
言いながら、ココロ達はおしゃべりを切り上げ、モペッドに跨った。
「日が暮れる前には戻って来いよ」
「もうそんなガキじゃないって」
川が通る東の森へ向った三人の姿を見送り、ガンツは、「まだまだ子供だな」と微笑んだ。
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