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ボディラインが強調された乗馬服を見事に着こなすエミリは所謂『痛い子』で、巷では『残念な美女』として有名な、ココロの幼馴染だ。
幼い頃はお人形のように可愛らしい容姿で、性格も今ほど憎たらしくもなかった。
親に溺愛され、自分が絵本に登場するお姫様だと信じ込み、いつからか古書に出てくるお姫様に憧れて、ある日を境に言葉遣いから振る舞いに至るまで、お姫様にかぶれ始めた。時期を同じくして、何かにつけてココロと張り合ってくるようになったのだ。
階級社会が失われ、『お姫様』という言葉もどれだけ浸透しているのかわからない現代において、彼女のそれはほぼ精神的コスプレだった。
それでも、美貌が美貌だけに慕う子が多いのも事実だ。
さらさらの長い金髪、黙っていれば美しい顔立ち、恵まれたスタイル。
何を着ても様になるエミリは、豊かに育った胸がどうやっても強調される為、下心丸出しでエミリの為に面倒ごとを買って出てくる男達が後を絶たない。そんな風だから、一部の女の子からは疎まれてはいるものの、その美貌を前に、正面切って勝負を挑む子は現れない。
恋愛の機会には一番恵まれているように思える彼女だが、異性からの告白を「ごめんなさいね」の一言で一蹴し続けているそうで、一部からは女の子が好きなんじゃないかと噂されていた。
不敵な笑みを浮かべたエミリは顎を上げてふんぞり返り、見下すようにココロを見ると、手に持った馬鞭の先をぴっと向けた。
「あら、ココロさんじゃありませんの。こんな所で会うなんて奇遇ですわね」
「何が「あら、ココロさんじゃありませんの」よ。表にあるモペッドで気づいてたくせに」
「お元気そうでなによりですわ」
「あんたも、気色悪い笑い方は相変わらずだね」
「淑女は上品に笑うものですのよ。あなたに会うのはいつ振りかしら」
「二週間ぶりくらい?」
「そうでしたわ、わたくし近頃忙しくて……あなたはここで何をしていたんですの?」
「修理してたカメラ受け取りに来ただけ。あんたこそ――」
そこまで言って、しまったとココロは顔を顰めた。
勢いあまった。
エミリを見ると、その言葉を待っていたとばかりににんまりと笑んでいた。
「聞いてくださいます? わたくしってば今、モデルをしていますの」
「聞いた聞いた、お似合いだあね」
「あなたには一生ご縁のないお話ですわ! おかわいそうに!」
勝ち誇ったエミリの表情に、ココロは会いたくない子に会っちゃったな、と嘆息した。
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