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ココロを家に置いて仕事へ来るのも慣れてきた頃、「その後どうだい、お姫様は」と同僚が話かけてきた。マリオは気にしない素振りを見せて、トラックのエンジン周りに入れた手を抜いた。
「いい子で留守番してるよ。もともと聞き分けがいいし、利口な子だ」
「聞き分けがいいなんて、よく言えるな」同僚は呆れたように言った。
「ここは場所が場所だ、仕方ないさ」
言うと、トラックの下に潜っていた若い男が小さく笑った。彼には二人の子供がいる。
「子供ってのは油断ならないですよ、三歳児は特にモンスターです。悪戯も覚えるし、言い訳も上手になって、嘘もつくようになる。笑った顔は天使でも、腹の中に悪魔を飼ってる」
「その悪魔に骨抜きにされてんだろ?」
「だから厄介なんですよね」
「ココロは違う。コップを割っても言い訳もせず堂々としているし、嘘を吐いてもすぐわかる」
「嘘吐くんじゃねえか」
「バレる嘘は、吐いてないのと一緒だ」
「どう見分ける?」
「あの子は嘘を吐くと、鼻の下が伸びて、サルみたいな顔になるんだ。可愛いだろ?」
マリオは整備していたトラックのボンネットを閉じ、鼻の下を触った。
「隠し事が出来ないってことですか?」トラックの下から声がした。
「その辺は器用じゃない。あれはわしの息子の血だな」
マリオが言うと、同僚や部下は声を揃えて笑った。
「子供ってのは、親の目が届かないところで悪さをするもんです」
「っは、うちの子に限ってそれはない」マリオは自信満々に言った。
やがて、仲間達の「ほら、言わんこっちゃない」という声が聞こえてくるような、思わず顔を顰めてしまう出来事が起きた。職場の電話が鳴ってグレイスに呼び出されると、コロニーの守衛から、「ご存知かどうかわからないんですけど、実はココロちゃん、度々脱走してるんですよ」と連絡が入った。
「家から?」マリオは片方の眉を上げた。
「壁から」
マリオはオイルで黒く汚れた手を布で拭うと、左の首に挟んでいた受話器を右手に持ち替えて、「誰の話だ?」と聞き返した。
あなたのお孫さん。
ココロ・ココニと告げられて、マリオは掌で額を触った。
脇で聞き耳を立てていたグレイスが鼻を鳴らし、読んでいた本に視線を戻した。
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