英雄

「まったくなんて無茶な事をしたニャ!」


廊下中にニャルテの怒鳴り声が響き渡る。


キリンジの自室では今、キリンジの無謀な独断行動に対してのお説教の真っ最中であった。


「命があっただけ奇跡ニャ!」

「すみませんでした…」


キリンジは申し訳なさそうに正座して聞いている。


「早くクラスアップしたい気持ちは分かるけどニャ、何事も土台がしっかりしてにゃいと必ず痛い目を見るニャ」

「仰る通りです…」


「そもそもニャ!」

ニャルテが次の言葉を言いかけた時、玄関の扉が勢い良く開け放たれ、現れたのは白髪ミディアムヘアの初老の男性だった。


「おおっと! すまねぇ部屋を間違えたみてえだ。邪魔したな穣さん方」


「変な芝居はしにゃくていいニャ、何しに来たニャ?」


「ニャルテ、お前さんの勘には敵わねえな!」


男は笑いながらコートからウィスキーボトルを取り出しぐいっと一口飲んだ後、再び話し始めた。


「Sクラス二人から推薦された嬢ちゃんがいるって耳にしてな、そのツラを拝みに来たのさ」


キリンジはニャルテの肩をぽんぽんと叩き、囁き声で問う。

「ニャルテ、あの人誰?」


「知らにゃいのニャ? あいつはシェリフ、Sクラスニャ」


【シェリフ】

単独でSクラスモンスター5体を相手に無傷で帰還し、英雄と称されたガーディアン。愛銃はコルトSAA アーティラリー



「でもって重要な任務も無く暇してるんだが、嬢ちゃん…クラスマッチの相手になってくれやしねえか?」


突然のクラスマッチの申し出に先に答えたのはニャルテである。

「馬鹿言うニャ! SクラスとBクラスじゃ不公平極まりないニャ!」


「俺は期待のルーキーの実力を身をもって知りてえだけさ」


「キリンジも何か言ってやるニャ!」


突然会話を振られたキリンジは何と言えばいいのか分からず俯いてしまった。




「俺が助っ人として出る、それで良いだろ?」

三人の視線が一斉に玄関の方へと向く。

突然現れた声の主はなんとシーカーであった。


「ニャ! 面倒くさい奴がもう一人増えたニャ」

ニャルテは溜息を付き近くの椅子へ腰掛け、もう知らないとでも言うようにアイマスクを付けた。



シェリフはニカッと笑い言った。

「コルトとスミス&ウェッソン、それにウィンチェスターのウェスタンマッチか! こいつは面白え事になるぜ!」


「決まりだな、なら俺は先に失礼する」

シーカーはそう言い残し、足早に去っていった。


それに続いてシェリフも玄関へ歩き出した。そして部屋を出る直前に振り向き、キリンジに問う。

「そうだ嬢ちゃん、Sクラスのガーディアンになるためのヒントを教えてやろう」


キリンジは唾を呑み、耳を凝らす。


「Sクラスになるための秘訣それは! やっぱり明日のクラスマッチまでお預けだな!」


そう言うとシェリフは高らかに笑い、部屋を後にした。


ニャルテはシェリフが去った事を確認するとアイマスクのしたからチラッと目を覗かせた。


「やっと帰ったのニャ、さて! 今日はキリンジに晩御飯を作るのニャ! 何が食べたいニャ?」


「ん〜、じゃあカレーが食べたいな!」


ニャルテは大きく頷き「お任せあれニャ〜!」と言うとキッチンの冷蔵庫を開け、食材を取り出し始めた。



照葉はテーブルの上に置いてあった"東京パフェ"という雑誌を手に取り1ページずつ丁寧に読み進めていく。


「ニャルテ、今度パフェ食べに行かない?」


「ニャ? もしかしてデートのお誘いニャ?」


「うん、デート!」


「キリンジもニャルテの魅力の虜になったニャ?」


確かにニャルテのスタイルは良い、何とは言わないがDだ…あるもののサイズがDなのだ!


他愛もない会話をしていると、カレーの良い香りが漂ってきた。


「完成ニャ!」


テーブルに置かれたカレーはゆらゆらと香りを含んだ湯気を立て、食欲をさらに増大させた。


「いただきます!」

「召し上がれニャ〜」



スプーンいっぱいに盛ったカレーライスを口に運び、ぱくっと一口…


初めて人から作ってもらった温かい料理、コンビニのおにぎりとは比べ物にならない美味しさに自然と涙が出ていた。


それを見たニャルテは驚き「泣くほど不味かったのニャ? だとしても泣くはひどいニャ!」

と喚いている。


「違うの、初めて人から作ってもらった料理だから嬉しくて」


「おかわりもあるから、ゆっくり食べるニャ」

ニャルテは穏やかな顔でそう良い、照葉は目を輝かせ「うん!」と答え、食事を再開した。


あっという間に一杯を食べ切り、二杯目のカレーライスが照葉の前に置かれた。


「やったー! まだまだ食べるぞ〜!」


「待つニャ!」

ニャルテが照葉のスプーンを止め、あるものをテーブルの上に置く。


「ニャルテ、これは?」


「ウスターソースニャ…これをカレーライスの上に垂らすと革命が起こるのニャ」


言われるがままにソースを垂らし、カレーライスと一緒に口に入れる。


「これはッッ!」


カレーライスのピリッとした辛さとウスターソースのコクと旨みが舌の上で社交ダンスをしている!

ウスターソースは揚げ物にかける物だとされてきた世界の常識に中指を立てるかのようなその味は、まさに至高の一言に尽きる。


「美味いッ美味すぎるよこれ!」


「ウスターソースオンカレーがそんにゃに珍しいかニャ?」


「私が住んでたところじゃ見たことも聞いたことも食べたことも無かったもん!」


「好きなだけ食べるニャ、たくさん食べて明日に向けて力をつけるニャ!」








そして迎えたクラスマッチ当日、フィールドの観客席は満員だ。


「なんだよこりゃ、西部劇でも見てる気分だぜ」

「俺はシェリフに賭けるね」

「なら俺はシーカーに賭ける」


そして前回同様のアナウンスが会場に響き渡る。

「これより、BクラスキリンジSクラスシーカーペアとSクラスシェリフのクラスマッチを行います。ゴム弾を使用して先に命中させたガーディアンの勝利。魔法は使用不可、近接武器はダミーナイフのみとします」



フィールド中央でシェリフとキリンジは向かい合い、握手を交わした。

「約束のヒントを教えてやる。Sクラスへのヒントは銃に浸ることだ」

キリンジは首を傾げる。

「銃に…浸る? どう言う意味?」


シェリフは高らかに笑い、キリンジの頭をわしゃわしゃと撫でた。

「それを言っちゃあヒントじゃねえ、答えは自分で見つけねえとな」


キリンジはスタート位置に戻り、そこにはシーカーが待っていた。


「シェリフは、何か言ってたか?」

「うん、銃に浸れって」


シーカーは鼻で笑い言った。

「そうか、あいつらしい的確なアドバイスだ」



「それでは、ガーディアンスタンバイ…」

観客席は一瞬で静まり返る。キリンジはレバーを引き、シーカーはシリンダーの弾薬を確認した。


ついに会場にブザーの音が鳴り響き、次なる試練が幕を開けた─────

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