クラスマッチ…?
「ここがウェポンハブ! ガーディアンが最初の武器を選ぶ、ミーティアの中でも重要な場所の一つニャ!」
ニャルテに連れられて来たこの部屋には、壁のラックに多種多様な銃や剣、弓等がズラリと並べられていた。
「うわ〜、久しぶりだなウェポンハブ!」
「どうしてこんなに沢山の種類の銃があるの?」
キリンジはニャルテに問うも、目だけはラックに釘付けになっている。
するとニャルテはその質問を待っていたかのように話し始めた。
「ニ世界の融合の後は、銃やその他の武器の輸入出規制が緩くなったのニャ。モンスターに食い殺されるかもしれないってのに、銃刀法がどうのこうのも言ってられにゃいしニャ〜」
「さ〜キリンジ、好きなの一つ選びな! しばらくは君を守る相棒になるんだから慎重にね〜」
キリンジはジョーカーに言われるがままにラックの銃をゆっくりと歩きながら見て回る。
そして、最初に手に取った銃はHK417であった。
「HK417か、中々見る目あるねキリンジ」
しかしキリンジはしばらく構えた後、すぐに銃をラックへ戻し、再び歩き出した。
「ほぉ〜、お気に召さなかったかニャ」
「いや、なんかしっくり来なくて」
その時、キリンジの視線の先であるものが目に止まった。
明らかに他の銃とは離されて立て掛けられたその銃が、自分を呼んでいるように感じた。吸い寄せられるように歩いて行き、丁寧にその銃を手に取る。
愛おしそうに銃身を撫で、キリンジは言った。
「これがいい!」
「え〜? もっと良い銃は山程あるニャよ?」
「キリンジのセンスは中々に渋いね〜」
「なんでその銃なのニャ?」
キリンジはその銃を眺めながら続ける。
「この子となら、上手くやっていける気がしたから!」
「その銃、シーカーが見たらきっと喜ぶだろうね」
三人が部屋を出ると、シーカーが入り口のすぐ横で待機していた。
「それは…」
シーカーが珍しく興味深そうにキリンジの銃を見つめ、興奮が真っ黒のゴーグル越しからでも伝わってくる。
「ウィンチェスターM1894。ウィンチェスター社が開発したレバーアクションライフルの完成形ニャ。もちろん30-30ウィンチェスター弾もウェポンハブに補完されてるし、追加の弾は言えば手配しておくからキリンジが心配する必要ないニャよ〜」
その時、長身の青年が足早に近づいて来た。
「ジョーカー、お時間よろしいでしょうか?」
「ああリク! ボクに何か用かい?」
「ガーディアンとして務めて二年、未だCクラスでは納得がいきません。是非ともキリンジにクラスマッチを申し込みたい」
キリンジは首を傾げた。
「クラスマッチって…バスケとかバレーとかするやつ?」
「違うニャ、ガーディアンは自分よりクラスが上のガーディアンにゴム弾を使った一対一の模擬戦を申し込めるのニャ」
「申し込んだ側が勝ったら?」
「その時点で相手ガーディアンと同じクラスへと昇格できるニャ」
「危なくないの?」
「試合前にミャ〜が防御魔法を付与するから心配にゃいニャ〜」
キリンジはあまりの展開に困惑しつつも、早く銃を試したいという感情がその不安を遥かに上回った。
そして彼女が出した答えは。
「やるわ」
「感謝する。キリンジ」
リクが差し伸べる手を固く握り、クラスマッチが成立した─────
二十分後には既に二人は広い競技場に立っていた。
部屋の中には大小様々な障害物が置かれている。
「これより、BクラスキリンジとCクラスリクのクラスマッチを行います」
大音量のアナウンスが流れ、観覧席の盛り上がりは最高潮に達しており、観客の中にはどちらが勝つかで賭けをする者もいた。
「俺はキリンジに賭けるぜ、Aクラスモンスターを仕留めたらしいしな」
「馬鹿言え、対人が初めての素人には変わりねぇよ。やっちまえリク!」
「ルールは単純、ゴム弾を使用して先に命中させたガーディアンの勝利とする。魔法は使用不可、近接武器はダミーナイフに限る」
いよいよ試合開始、会場は静まり返った。
「それでは、ガーディアンスタンバイ…」
緊迫した雰囲気の中、キリンジは高鳴る鼓動を抑え、覚悟を決め銃のレバーを引いた。
開始を告げるブザーが鳴り響き、両者は素早く遮蔽物に身を隠す。
開始地点からは両者が視認できないよう設計されたこのフィールドでは、索敵能力も勝利への鍵となっていた。
(このまま隠れた所で埒が明かないわ、動かないと)
キリンジは周囲を警戒しながら5メートル程前にある遮蔽物へと移る。
その時だ、遮蔽物へと到着する直前に三発の銃声が鳴り響き、彼女のすぐそばの地面に着弾した。
これで両者お互いの位置が分かる状態となり、ついに互いの遮蔽物を挟んだ撃ち合いに発展した。
撃ち合いの中でキリンジは何かをカウントダウンしているようだった。
「3…」
ピークし射撃、不定期にピークする位置や高さを変えながら行動に規則性を持たせない。
観客席でキリンジの戦いを見ていたニャルテは不思議そうにシーカーに問う。
「シーカー、キリンジは何をぶつぶつ言ってるのニャ?」
「数えてるんだ」
シーカーの一言にニャルテはさらに疑問の表情を浮かべる。
「でも何を数えてるのニャ?」
それに対しジョーカーが答える。
「まあ見てなよ」
「2…」
長く続く撃ち合いに観客は釘付けにされていた。
激しい撃ち合いの中、キリンジは遮蔽物間を移動し徐々に距離を詰めていく。
「1…」
その様子を見ていたニャルテは前のめりになりながら叫んだ。
「何やってるにゃキリンジ! 相手はMP5ニャ! 近距離での取り回しの良さと射撃レートでは圧倒的不利ニャ!」
「0!」
そう言うとキリンジはリクの遮蔽物へ勢いよく走り出した!
「ニャァァァァ! 見てらんないニャ!」
「やっと来たなキリンジ!」
リクのピークと射撃のタイミングとほぼ同時に近くの遮蔽物へ隠れ、射撃が止むと腰撃ちで牽制しながら距離を詰める。
最後にリクが顔を出した時、キリンジが隠れられる遮蔽物は無かった。
リクは勝ちを確信した笑みを浮かべ遮蔽物から出た。
「堪えきれずに飛び出して来たなキリンジ、近づいて来る途中の牽制射撃が止んだ時から君は弾切れだとすぐに気が付いたよ」
「そういう貴方も弾切れですよね」
リクはフッと笑い銃のマガジンを落とした。
「一つ学んだな、この状況でのリロードタイムは逆立ちしようが俺の方が速い。ウェスタンでも観たか? 映画で得た情報は全部忘れろ新人」
その直後リクの笑みがさっと消える。
それに対し、キリンジは落ち着いた笑みを浮かべ言った。
「予備マグ、もう無いんですよね?」
「ああ、二人とも弾がないんじゃ勝負が付かないな」
キリンジは首を傾げる。
「え? 私弾切れなんて言いましたっけ?」
そう言ったキリンジは銃を握っていた右手を開いた。
そこから現れたのは、一つの弾薬であった。
キリンジはそれを装填口から装填し、レバーを引く。
ニャルテは驚愕し、ジョーカーの肩をぶんぶんと揺らした。
「どういう事ニャ?! 何が起こったニャ!」
ジョーカーはニャルテの手を払い言った。
「最初からこれを狙ってたんだよ、キリンジはさ」
シーカーもそれに加えて
「キリンジがカウントしていたのはリクのチェストリグにあるマガジンの数だ。あいつはリグにあるマグが0、つまり最後のマグが銃に付いている状態になるのを待っていたんだ」
「ウィンチェスターライフルは装填とレバー操作だけで発射可能になる。だからキリンジはこの特性を活かすためにずっと一発隠し持っていたのさ〜」
ジョーカーはまるで子供のように輝いた瞳でフィールドに立つキリンジを見つめていた。
「やっぱり、俺は所詮Cクラスだ」
俯くリクを見ても尚、銃口は彼に向けられている。
そしてキリンジが口を開いた。
「遮蔽物の使い方も射撃能力も、貴方は充分Cクラスより上を狙えると思います」
リクは微笑み、銃を置き両手を広げ答えた。
「ほら撃てよ。俺も、もう少し頑張ってみるよ」
キリンジもそれに対し
「ありがとうリク」
と言い引き金を引いた──────
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