キリンジ
あれから六時間、今三人がいる場所は東京にあるミーティア本部である。
「ジョーカー? 今から何するの?」
「んぇ?…え〜と試験…かな」
「まさか、筆記試験があったりする? 私不登校だから勉強は自信が無くて…」
すると後ろからやって来たシーカーが照葉の頭をわしゃわしゃと撫でて言った。
「まあ、俺達に任せろ」
シーカーとジョーカーに押され強引に扉を抜けると、本部は大勢の冒険者とガーディアンが談笑したり腕相撲をしたりと温かい雰囲気に包まれていた。
「ジョーカー、シーカー二人ともおかえりなさいニャ〜!」
獣人の受付係がさっと駆け寄りキラキラとした笑顔で二人を出迎えた。
「ニャルテちゃ〜ん、今日もカッワイ〜!」
「ニャ〜!」
ジョーカー、そしてニャルテと呼ばれる獣人はグータッチを交わした後、ニャルテは照葉に気付いた様子で…
「ニャッ?! その子は誰ニャ?」
「あぁゴメンゴメン、紹介がまだだったね。この子は照葉、聞いて驚け〜? なんとAクラスのレッドドラゴンを仕留めた民間人だ!」
「ニャンですとぉぉ?! ミャ〜はニャルテースって言うニャ! ニャルテって呼んでニャ〜」
その時、シーカーが「ゴホン」と咳払いをして話し始めた。
「ニャルテ、早速だがこの子にクラステストを受けさせてほしい。筆記試験は無しで頼む、Sクラス二人からの推薦枠だ」
「シーカーにゃらそういうと思ってとっくに手配は済ませてるニャ〜よ。照葉、がんばるニャ!」
10分程の待機の後、照葉が呼び出されたのは全面白で埋め尽くされた広々とした部屋だ。
(ミーティアの試験って、たくさん試験官が居るのかと思ってた…)
そんな事を思っていると突然部屋中にアナウンスが響き渡る。
「ようこそテストルームへ、今日からおみゃ〜さんはこのニャルテが責任を持って面倒を見るのニャ!」
「ニャルテちゃんが担当でほっとしたよ」
「ミャ〜もSクラス二人からの推薦者を担当するなんて光栄ニャ〜よ。ささ、まずは回避能力のテストニャ。周囲360度から飛んでくるカラーボールを1分間避けるのニャ」
すると白い壁が突然動き出し、大砲のようなものがずらりと照葉の周囲に出現した。
「それじゃ行くニャ、3…2…1…GO!」
発射された一発目が照葉を目掛けて猛スピードで飛んでくる。なんとか躱わすも、背後からの二発目が彼女の背中を直撃した。
「見て動くじゃ遅いニャ、可能性を想定して動くのニャ」
「どういう事よ!」
「やってれば分かるニャ」
開始後三十秒、発射される弾の頻度も多くなってきた。
三発に一回程当たっている照葉はだんだんと追い込まれていく。
(可能性を…想定?)
その時、照葉の脳裏にあるビジョンが浮かんだ。
0.5秒後背後から発射される弾のビジョン。
照葉はそのビジョンを信じ体を大きく捻った。
ビジョン通りに弾は発射され、照葉の頭上を通過していった。
(なんか、掴めた気がするッ!)
モニタールームでその様子を見ていたニャルテはガッツポーズを取り笑みを浮かべた。
「そうニャ、疑心暗鬼こそ最強の回避能力ニャ」
残り二十秒、照葉は予想に委ね体を自在に動かし、弾を見事に避け続けた。
「予測での回避は充分身についたようだニャ、けどこのテストで一番試されるのはそこじゃニャい」
ラスト一秒、先程まで一発ずつの発射とは変わり、全ての大砲から一斉に照葉目掛けて発射された。
「ガーディアンを分ける要因は何といっても、技術と判断能力ニャ〜よ?」
ニャルテはニィっと笑いマグカップを口に運んだ。
不測の事態だが、照葉に考える時間などない。
(360度の平面上での射撃なら逃げ場は一つ…上ッ!)
照葉は強く地面を蹴って飛び上がり、その下ではカラーボールが互いにぶつかり合って地面に落下した。
スピーカーから拍手の音が聞こえ、ニャルテが明るい口調で話し始めた。
「お疲れ様にゃ照葉! 次は射撃のテストニャ!」
壁は再び白い壁で覆われ、直後に周囲の壁一面に荒廃した市街地の様子が投影された。
「この部屋は過去の戦闘データを元に視覚、嗅覚、聴覚を再現して作られた部屋ニャ。そこにある赤外線ピストルを使って一分間で撃ったターゲットでクラスを判断するニャ」
しかし、重要なピストルが何処にもない。
「ちょっと〜、何処にもピストルなんて無いけど〜?」
「ンニャ?! 忘れてたニャ! これで良しニャ〜」
すると床の一部が展開し、ピストルが収められていた。
「いいかニャ? そのピストルを引き抜くとテストがスタートするニャ、覚悟を決めてから手に取るニャよ」
「やってやるわよ、ピストルを掴むなんて自由を掴むより簡単だもの」
照葉がピストルを引き抜いた瞬間周囲にターゲットが現れ、照葉は一つ、また一つと確実に素早く撃ち抜く。
その様子をニャルテはこれまで以上にキラキラとした瞳で眺めていた。
「シーカー、ジョーカー…とんでもニャい奴を連れて来たニャ〜ね」─────
テスト後、待機室で待っていた照葉の所へファイルを持ったニャルテがやって来た。
それとほぼ同時に別の入り口からシーカーとジョーカーも入室する。
「お疲れ照葉〜!」
「早速だがニャルテ…結果は?」
ニャルテは呆れ顔でファイルを捲りながら言う。
「ほんとシーカーはせっかちニャ、だから女の子が逃げていくニャよ」
「フン…余計なお世話だ」
「じゃあ照葉! まず回避能力はCクラスニャ。まあ後半の取り返しから見ても将来有望だから心配する事ないニャ」
照葉は落ち込んだように俯いた。
「そう…ですか。射撃テストの方は?」
「射撃テストの結果は一分間で百二十三発の命中ニャ。正真正銘の…Aクラスの射撃精度ニャ!」
照葉の顔はパッと明るくなり
「じゃ、じゃあ私のクラスは?」
「Bクラスだな、俺が見込んだだけある」
「やったね照葉!」
ジョーカーは照葉を抱きしめ、ニャルテはその様子を見てニコニコと笑っていた。
ニャルテはファイルのページをパラパラと捲りながら再び話し始めた。
「既にコードネームも用意されてるニャよ?」
コードネームとはガーディアンとしての自分を表す二つ名である。
照葉は唾を飲み、ニャルテの発表を待った。
「照葉のコードネームは……」
自分の鼓動が聞こえるほど静寂に満ち、緊迫した空気が場を埋め尽くす。
「キリンジ…それが照葉のコードネームニャ」
「キリンジ、私の名前? 最高にかっこいいじゃん!」
「後大事なのが一点あるニャ、キリンジは推薦枠だから仕事はSクラスと同行するニャ。で、シーカーはミーティアの団員じゃ無いから必然的に…」
「ボク…だよね?」
ジョーカーが自分を指差しながら言った。
「そうニャ」
「そうなんですか?」
「そうなのニャ」
「本当に?」
「本当なのニャ」
「マジで?」
「マジなのニャ、てかいつまで続けるつもりなのニャ…」
ジョーカーはキリンジの手を取り、期待に溢れた笑顔で言った。
「これから宜しくね! ガーディアンキリンジ!」
「こちらこそ迷惑かけちゃうと思うけど、宜しくお願いします!」
二人のやりとりを見終えたニャルテはパチンと手を叩き、強引にキリンジの手を引き歩き出した。
「ちょ! どこに行くのニャルテ?」
手を引かれながらキリンジはニャルテに問う。
「最高のガーディアンには最高の装備ニャ! 半端な装備じゃ守るもんも守れないニャよ!」
「そうだキリンジの装備選び! ボクも手伝うよ〜!」
照葉が感じたことのなかった人の温もりを、キリンジとしての人生でやっと感じる事ができた瞬間だった。
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