第24話 お出かけイベント
プリ庭には、時折お出かけのイベントが入る。主人公が相手を誘い街へ繰り出すことで好感度を上げることができる。無論ハルトと出かけるというイベントは存在しない……はずなのだが。西洋の街並みを思い起こさせるような街中で、僕はリリアの隣に立っていた。
「……というわけでハルト君! 今日一日、護衛をお願いしますね!」
「どういう訳で!? 何で僕!?」
ユリウス学園には女生徒一人で出かけることをなるべく控えるようにという校則がある。そのため主人公のリリアは誰かヒーローを護衛という名目で連れ出すことができるのだ。……改めて考えてみると凄くゲーム都合な校則だなあと思う。
「ここは普通高等部の知り合いとかじゃないんですか!?」
「下級生を護衛にしてはいけないという決まりはありませんよね?」
「そうですけれども!」
確かに護衛をする生徒は、ユリウス学園の生徒であれば高等部、中等部は問われない。だが、基本的には頼れる年上や同年代を選ぶのが学園では暗黙の常識となっている。編入したばかりのリリアは、それを知らずに僕を誘ったのかもしれない。
「……わかりました。ちなみに、どこに行くんですか?」
「ハルト君の服を見に行きましょう!」
「えっ!? それって、服屋ってことですか?」
「そうですが……、服は嫌ですか?」
「いや、そういうわけじゃなくて……自分の買い物じゃないんですか?」
お出かけ先に服屋という選択肢はなかったため、つい驚いてしまった。ゲームでのお出かけでは
「あ、もちろん私の服も見ますよ?」
「そ、そうですか……ってそれは僕が行っても意味無いんじゃ」
「いえ! ハルト君に選んで欲しいんです!」
「!」
僕に選択を委ねられるなんて、いつ以来だろう。少なくとも思い出す限りでは思い当たる節は無かった。彼女に似合いそうな服を、僕なんかが選べるのだろうかと不安になる。
「そ、それはちょっとハードルが高いと言いますか……」
「君のセンスならきっと大丈夫です! 行きましょう!」
そう言ってリリアは僕の腕を掴んで歩き出した。僕はやや転びそうになりながらもなんとかついていく。そこからは目まぐるしく時間が過ぎていった。
「どうでしょうか、似合いますか?」
「は、はい……けど僕にはちょっと眩しすぎると言いますか……」
「こ、こういう決まった感じの服は緊張しちゃうというか……」
「素敵ですよ! ハルト君!」
前世では無縁だった恥ずかしさと眩しさによって、僕の記憶には今の会話ぐらいしか残っていないのであった。……このやりとりだと、どっちがヒロインかわからなくなりそうだ。
長かったような短かったような一日に、街を紅く染め始める夕日が終わりを告げているように見える。精神的な疲れが多かった僕は、随分と腑抜けた顔をしていたようで、リリアは僕の頬を人差し指で突っつきながら笑っていた。
「ふふっ、疲れさせてしまったみたいですね」
「あはは……慣れない事をしたもので……」
「今日は付き合ってくれて、ありがとうございます」
「いえ、楽しかったですよ」
「! ……それはよかったです」
少し風が冷たくなり、空気が変わったのを感じた。先程まで満面の笑みだったリリアの表情に、少しだけ陰りが見える。何か大事な話があるのだろうか、と歩いていた足が不意に止まる。
「……ハルト君」
「はい?」
「もしも……」
次のリリアの質問によって、これまで少し浮足立っていた僕の気分が……一気に引き戻される事となった。
「もしも今日の行き先を……
「っ!? リリアさん!?」
偶然かもしれない。しかし内容が内容なだけに偶然と聞き流す事が出来ない。その並びは、僕を驚愕させるのには充分すぎた。何故なら……。
(その質問は……
この世界に転生してきたのは、僕だけじゃなかったのだろうか。リリアも僕と同じ境遇で、彼女は主人公になったということだったのだろうか。僕がこれまで見て感じてきた事を全てひっくり返されたような展開に、僕は完全に固まってしまった。僕が返事しないのを悟ったのか、リリアは僕から目を背けた。
「……ごめんなさい、今のは忘れてください」
「……」
「ここまでで大丈夫です。今日はありがとうございました」
「あ……」
そう言って、リリアは僕の手を離し、背を向けて歩き出す。リリアも僕と同じようにこの世界に転生してきたのだとしたら、僕はどうしたらいいのだろう。そんな迷いは、どこか寂し気な背中を見た瞬間に消し飛んでいた。
「……また、行きましょう! どこへだって、一緒に行けば楽しいと思います!」
「! ……そのような事を言われてしまったら、また連れまわしちゃいますよ?」
「それは……程々でお願いします」
「ふふっ、わかりました。それではまた学園で!」
「はい!」
(例えどっちだろうと、リリアはリリアだよね)
僕はただのサブキャラなのに、出過ぎた真似をしてしまっていると思う。けれど、ああせずにはいられなかった。これは僕にしか出来ない事だ、なんて柄にもなく思った。
(『代わりのいない存在』。……もしかしたら、もしかするのかもしれない、なんてね)
これが果たして成長なのか、驕りなのかはわからない。けれど僕の心は満たされていて、きっと間違いないと後押しを受けているように思えた。
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