蹂躙

 自分の前に立つノロストロイ。

 その体が一瞬にして僕の前から消える。


「はや───っ!?」

 

 それに対して、僕が対処できたのはただの奇跡でしかなかった。

 一瞬にして己の背後に立っていたノロストロイが無造作に振り下ろしてきた剣に僕の身体はしっかりと反応してくれた。


「……衝撃吸収か」


「ご名答!」


 相手から受ける衝撃を吸収してくれるという魔道具である刀。

 それを持つ僕はノロストロイの一撃による衝撃をその効果と技術で完全になきものとしながら体を反転させ、彼の方に視線を向ける。


「無駄だ」


 それと共に懐に隠し持っていた短剣を投げつける僕であるが、それはノロストロイが常時展開している結界に脆くも弾き飛ばされる。


「脆い、軽い」


 相手の攻撃は止まらない。


「ぐぬっ」

 

 ノロストロイは僕に対してその手にある剣を幾度も振るい続ける。

 特別な技術も、魔法も、道具もない……ただ、単純に格が違う身体スペックを前に僕はどんどん押し込まれていく。

 吸収しきれない衝撃が、受け流しきれない衝撃が、僕の手を痺れさせると共に態勢をどんどん崩していく。


「ごふっ!?」


 そんな僕の腹へと急に動きを変えたノロストロイの蹴りが突き刺さる。


「存外持つ」


 それでも、僕は留まる。

 たった一発で消し飛ばれそうになった意識を繋ぎ留め、力を失った体を魔法で無理やり動かしながら後方へと下がっていく。

 そんな僕をノロストロイは容赦なく追いかけてくる。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ」


 そして、そのまま雨のように、四方八方から剣による

 僕はその圧力に負けないよう、声を張り上げて全身全霊で向き合い、それらの攻撃を一つ一つ受け流していく。


「がっ!?」


 だが、永久には続かなかった。

 幾重もの交わりの果てに僕の手からとうとう刀が弾き飛ばされる。


「終わりだな」


 そんな僕の身体に向けて振り下ろされるのはノロストロイの剣。




「……ぐっ、あぁ」




 なんとか、致命傷は避けた。

 それでも大きく体を切り裂かれて血を流しながら地面に転がる僕はうめき声をもらすのだった。

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