幹部

「ここまで、嗅ぎつけてくる曲者は誰か」


 逃げることはできない。

 それでも情報は渡す。


「……」


 最低限の職務をこなせた僕はある程度、諦めを抱きながら己の前に迫りくる人影が自分の前にやってくるのを待つ。


「疑問であったが、貴様であれば疑問はない」


 そして、僕の前に現れたのは一人の魔族。


「……これはまぁ」

 

 明らかに安物ではない服装に身をつつみ、見せびらかすように数多の勲章を服にぶら下げる魔族の男であった。

 軽装で来てしまった僕とはまるで格が釣り合わない人物。

 どうやら、僕の直感はこれ以上ないまでに冴えわたっていたようだ。


「星霜の風のリーダー。力は脆弱たるが、総合力が非常に高く、命すらもベットすれば個人で軍隊と戦うことも可能な強者にして弱者。中々な人物が釣れたようだ。貴様がここを突き止めるのであれば理解も出来よう。だが、単独行動が多いという悪癖が出たな、何かを極めることは出来ぬ哀れな求道者よ。既に情報は漏れた……が、貴様を取れるのであれば許容範囲である。奇襲は諦めても良い」


「随分と過分な評価みたいで」


「過分でもないとも。我ら魔族は君を評価しているのだ」


「……それは、嬉しいね」


 そこまで言ってくれるとは、下手したら僕は人よりも魔族から認められているのかもしれない。


「ふぅー」


「俺は魔王様に仕えし将軍が一人、ノロストロイ」


 これはこれは、魔族の将軍、幹部クラス。

 そんな魔族が僕の前に来るとは。


「ふふっ」


 どこまで行っても凡夫でしかない僕がそれだけ大きな人物から明確な敵意を向けられ、ネームドとして殺される。

 随分と、僕も大きくなったじゃないか。


「くくく……」

 

 そう思えば。

 自分の努力も無駄じゃなかったような気がして、


「何がおかしい?」


 己を殺す人物が大物だったから嬉しかった。

 そんな妄言は仕舞っておくべきだろう。


「いや、何も……さて、足掻くくらいは、しようかね」


 僕は腰に下ろしていた鞘から刀をゆっくりと抜き、構えるのだった。

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