完成

 まさに宝、白い宝石である。


「ふふふ……」


 僕が長年求め続けた日本人のソウルフードである白米が僕の前にあるのだ。

 それを前にして浮かれるなという方が無理であろう……そんなことを考える僕は前もって準備していた五つのどんぶりへとご飯をよそっていく。

 味見してみたが、ちゃんと美味しいお米である。

 

 この世界の文明レベルは中世辺りから近世であり、品種改良も現代の日本ほど進んでいないだろうから、そこまで美味しくはないことを覚悟していたのだが、しっかりと美味しかった。

 品種改良もほとんどなしにこの味とは恐れ入る異世界といった感じである。


「もういいかな?」


 お米をよそった僕はお湯の中に付けていたローストビーフを取り出す。

 ローストビーフを袋から出し、袋の中に入っていた肉汁は今も熱しているソースの方に足していく。

 そして、まな板の上に置いたローストビーフへと包丁の刃を通す。


「うん、綺麗なロゼだ」


 理想的な熱の通り方。

 お店に出せるようなレベルのきれいさをしている。


「味も問題なし」


 端の部分をつまんで味見をする僕はその出来に満足しながら頷きながら、ローストビーフをどんどんと薄く切っていく。

 やはり、ローストビーフは薄いに限る。


「よし」


 しっかりと僕のプロ顔負けの包丁さばきによって薄く切られたローストビーフをご飯の上に乗せていく。

 

「ソースの方も完璧」


 僕はフライパンを熱していた火を止め、その代わりに冷気を注ぎ込んでソースの熱を冷ましていく。


「こんなものか」


 ソースはこれで完成……だが、ソースをかけるよりも前にやらなくてはならないことがある。


「ふふふ……白米が白い宝物なら、こっちは黄色い宝物だよ」

 

 ローストビーフ丼であれば、やはりこいつが欲しくなってくるだろう。

 卵の黄身だ。

 普通であれば生卵を食べるなどただの自殺行為ではあるが、ここは星霜の風としての腕の見せ所。

 養鶏場を個人で作り、生卵で食べても問題ない新鮮な卵を自前で用意した。

 

「素晴らしい」


 産みたてほやほやの卵を五つ割り、ローストビーフ丼に乗せる。

 その上から完璧な出来と言えるソースを流していく。

 後は彩のために適当な野菜を乗せておけば完成だ。

 圧倒的に満足出来る完成度、日本であってもお店で出せるほどに完成されたローストビーフ丼を前に僕は感嘆の声を漏らすほかない。


「ふふふ……完璧だぁ。カメラほしぃー、SNSに上げたい」


 星霜の風が持つ財力とコネ。

 そのすべてをフル動員して作り上げた前世における僕の好物。

 ローストビーフを前にして僕は満足げに頷くのであった。

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