料理

 星霜の風としての僕の役目。

 それは雑事が主であり、毎日四人分の食事を作ることも僕の大切な仕事だ。

 現代の日本とは違い、冷食や便利な道具がない故に時短など一切出来ず、過酷で時間のかかる仕事ではあるが、それでもこのパーティーの中で僕が出来る仕事の一つ。

 決して手間を惜しむことはない。

 それに、僕も料理は好きな方だしね。


「ふふふ……まさか、この世界に牛がいないとは驚きであったが」


 この世界において、畜産は全然進んでいない。

 その代わりとして進んでいるのが何故か、何もないところから大量に生まれてくる魔物を肉として喰らうことである。


「何とか牛と同じ味がする肉を見つけて来たぞ」


 僕は自分で狩って捌き、魔法で作った冷蔵庫の中に仕舞っていたお肉を取り出す。

 味は最も牛に似ている魔物を見つけるのには苦労したが……この魔物はそこそこいてなおかつ討伐難易度も僕一人で問題ないレベルであり、


「ふんふんふーん」


 ここで作るのはメシマズ王国であるイギリスが誇る美食、ローストビーフである。

 まずはお肉に下味をしっかりとつけてから、熱したフライパンへと入れる。

 しっかりと強火の火ですべての面を焼き終わったらそのお肉を上げて袋の中へと入れる。


「閉じて、抜け」


 そして、その袋を魔法でしっかりと密封し、その後に空気を抜き取っていく。


「よっと」


 完全に密封状態になったローストビーフ入りの袋をキッチンで浮かせていた温めていたお湯へとつけ、そのまましばし放置。

 中にまで熱が通るようにお湯で加熱だ。

 保温もすべて魔法が行ってくれる……こうして思うと、便利道具なんてなくても魔法で十分だな。

 

「お次はー」

 

 前世でローストビーフを作る際に使った炊飯器を魔法で簡単に再現できていることに感心しながら僕は冷蔵庫から玉ねぎを取り出し、多くの調味料を手に取る。

 玉ねぎは魔法ですりおろし、多くの調味料の量も完全に魔法で計り、それを混ぜ合わせてソースを作る。


「っとと」


 出来上がったソースをお肉の肉汁が残るフライパンへと注ぎ込み、熱していく。

 

「かき混ぜろ」


 焦げないようにかけ回すのも魔法で代用。

 魔法さまさまである。


「さぁーてと」


 ここからがお待ちかね。

 本当のスペシャリスト……僕はフライパンの隣で熱した釜の蓋をゆっくりと開ける。

 釜の中にあるのは白い宝石たちだ。


「おぉぉぉ……」


 苦節十数年。

 常に追い求め続け、星霜の風が持つ金とコネを集めて何とか見つけ出して取り寄せた日本人のソウルフード。

 お米が、この釜の中に炊き立ての状態で入っていた。


「ふふふ……」


 僕は作ろうとしているのはローストビーフではない。

 ローストビーフ丼なのである。

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