二人で

「……」


「……」


 魔王についての、話を聞いた後。

 ウルティに二人きりで話したいことがあるからと呼び出された僕は彼女と共にうちの屋敷の庭の方へと出てきていた。


「は、話しにくいわ……」


 だが、それにちゃんとルーエたちの三人がついてきていた。


「いつものことです。気にしないでいきましょう。それで?自分への話とは何でしょうか?」


 そんな三人に抵抗感を持っているウルティへと僕は本題に入るよう勧める。


「そ、そうね。気にしないでいきましょうか。それじゃあ本題に入るわね」


 庭に置かれている椅子に座り、葉巻を吸っているウルティは口を開いて本題に入る。


「貴方、もっと上を目指すつもりないの?コーレンはいくつもの技能を身に着けているわけで、それを生かせばもっと強くなれるんじゃないかしら?あの三人と同じくらいに」


 ウルティの告げる本題。

 それは、僕がどうしても見たくない現実の一つであった。


「……すぅ、どう……なんでしょうねぇ?」


 今にも表情を歪めてしまいそうな、そんなウルティの言葉に対して、僕は首答え、彼女が吸っている葉巻の方へと手を伸ばして口へと咥える。


「あっ、ちょっと」


「いつからでしょうか……僕は元々、努力したりするの嫌いだったんですよ。これでも、小さな頃は神童だったので」


 あの頃は実に痛々しかった……自分にチートがあると信じて疑わず、ただ努力するのを嫌った。


「それでも、僕はあの三人に触発される形で強さを追い求めて……何時しか馬鹿みたいに努力して足掻き続けて色々なものを学んで、自分の身体を追い詰め続けるのが苦痛ではなくなっていました」


「だったら」


「……ですが、それでも。僕が今から、自分の中にある有象無象の才能を磨き上げて一流を磨き上げる気にはなれないんです。確かに、それをすればもっと強くなるでしょう。血反吐を吐くような思いをすれば、彼女たちにも届くかもしれません」


 物事はやってみなければわからない。


「それでも怖いのです。一生懸命やって、彼女たちに届かなかったことを考えると。既に僕は折れているのです。自分に絶対的な才能がないと。わかっていますよ……自分だって秀才だと。すぐに物事を覚えられる器用さがあるって、それを生かして努力すれば輝けるかもしれないって言うのも。でも、僕は知っているのです。努力の末に築き上げた己の技量をほんのわずかな努力で上回ってしまう彼女たちを見て泣き崩れてきた先人たちを間近で」


 だけど、やってしまえば現実がわかってしまう。

 それに、恐怖しなくて何に恐怖すればよいのだ。


「だが」


「これが、僕だよ」


 食い下がってくるウルティに対して、自分の体にとって害しかもたらさない葉巻の煙を吐きながら僕は笑う。


「何か、期待していたのならありがたいけどね。悪いが無理だ……こうして、葉巻なんぞで自分の体を傷つけることで悦に至るクソ野郎だからね」


 僕は加えていた葉巻をそっと口から外し、彼女の口元に戻す。


「臆病者の僕に出来ることなんてないよ……許せ」


「あっ……」


 ……。

 ……………。


「……っ」


 何を言っているのだっ!?僕はァァァァァァ!?

 中二病よりも痛い、あまりにも痛すぎる自分の行いに対して今になってすさまじい羞恥心を覚えて足早と立ち去る。

 幾度も考えて、考えて、考えて、もはや現実感がなくなってしまったことをいきなりウルティが聞いてくるからだ!

 そんなことを考えながら僕は慌ただしく自分の部屋へと戻っていくのだった。




「……っ」




 一人、取り残されて呆然とするウルティは一度、コーレンが咥えた葉巻を己の口から外し、


「……」


 僅かな悩みの末に再びそれを加える。

 その間、ウルティは一言も話すことはなく、それからしばらくそのまま自分が咥える葉巻を味わっていく。

 



「あれはぁ……ダメですねぇ」


「やっぱりコーレンには仮面をつけさせよう。あいつの顔は危険すぎる、封印が必要だ。イケメンがアンニュイな顔をしているだけでズルい……イケメンがあまりにも正義すぎる!」


「殺そう。あいつは今すぐにでも殺そう」


 そして、ヤンデレたちは静かに怒りを漲らせるのだった。

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