黒い影

 僕の前に立つ黒い影。

 その姿は不定形であり、それを決して人と思うことは出来ない。


「何が効くのかね!?全く!」


 天才たちに及ばぬ不格好な踊りを見せるなどとほざいてしまったが……そもそもとして、何も出来ないかもしれない。


 パッとその影に効かなそうな毒や酸、精神干渉魔法などを僕はばら撒いていたのだが……その魔法の波は黒い影へと確実に当たるも、残念ながら確実に何の効果も与えることなく消えてしまう。


「ちっ、クソッタレめ」


 概ね、己の想定どおりの結果を前にしても、それでもわずかながらの希望を持っていた僕は毒を履きながら散らばらせるようにしてどんどん魔法をばら撒いていく。

 徐々に、徐々に徐々に影へと聞きそうな魔法を向けながら


『───』


「おおっ!?」


 その間にも黒い影は何にもせず喰らい続けてくれるわけではなく、その姿を高速に動かしながら僕の方へと迫ってくる。

 影の体をわずかに変化させながら剣に槍を己の体で見せてこちらへと迫ってくる。


「光あれ」


 そんな黒い影の攻撃をほうほうの体で何とか逃げながら魔法を発動する。


「消えろよ、クソが」


 影に光。

 それはまず真っ先に思い浮かぶ対抗策であったが、それでも何も起こることはなく影は平然と光の世界で当たり前のような表情を浮かべてこちらへと迫ってきている。


「転移」

 

 だが、その前に僕も手を打っている。

 予めマーキングしておいた地点へと何とか完成させた召喚の魔法で己を召喚することで距離を取る。

 

「降り荒れろ」


 その次だ。

 僕は一瞬にして大量の魔法を発動し、各種様々な属性の魔法を黒い影へと向けると共に懐にしまってある短剣を取り出して全力で投げる。

 基礎的な魔法に物理。


『───』


 だが、それらすらも何の意味もなく黒い影を通り抜けてしまう。

 それが、僕の威力のなさによるものか、それでもただの種族的な理由によるものか。

 今の僕にはわかる由もないが。


「ははは」

  

 それでも僕は何か一つでも対抗策が在ると信じて戦うしかなかった。

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