時間稼ぎ
延々と続く黒い影。
どこまでも僕の周りで蠢く黒い影の猛攻をひたすらに回避していく。
「もうそろそろ手札消えるぞ……ッ!」
僕は自分の手元にある一つの魔道具を起動させる。
それと共に魔道具から飛び出す一つの怪物が黒い影へと襲いかかる。
「召喚」
それだけではなく、僕は召喚魔法を発動させて十を超す魔物を出現させて黒い影の方へと向けていく。
幾つもの魑魅魍魎が黒い影へと襲いかかるのだが、それでも何の意味もなく彼らは切り刻まれて消える。
「……ッ、これは、もう無理かな……」
そして、魔物から標的を僕の方へと変えた黒い影の突進を回避する僕は一人で苦笑混じりに言葉を漏らす。
「ここまで来たら……もう何も効かないでしょ」
僕が戦うには強すぎた相手。
それが今、己の前にいる黒い影であった。
「まぁ、そんなの日常茶判事でしかないけどね」
だが、そんなもの今更驚くようなことでは無い。
僕の戦闘とは常日頃そうなのだから。
自分よりも遥かに強い三人と同じパーティーを組んで行動をともにする僕は当然、敵も味方同様に己よりも遥かに強い相手となる。
「うしっと……時間稼ぎといきますか」
僕など頼もしい味方である三人が来るまでの前座、時間稼ぎ要因でしかない。
「ほれ」
勝つことを諦めた僕は魔法でいくつものデコイを出現させ、それらを黒い影へと向けていく。
数多の硬いだけのでくのぼうたちが黒い影の前を陣取って行動を阻害する。
そして、それと共にデコイだけではなく僕の分身体も一緒だ。
こちらの分身体は表面上、全く持って僕と同じ情報をもつ存在であり、端からでは区別などつかないだろう……まぁ、でも分身体たちは戦うことなんてできないけど。
それでも、相手を確認するためであれば使う価値もある。
これらで撹乱を狙っていく。
「はぁー、どこまで持ちこたえられるかねぇ」
僕がせっかく出したデコイに分身体も全部まとめて黒い影は己の体を伸ばすことで一網打尽にしてくる。
そんな光景を前にすればため息も吐きたくなるものだろう。
デコイと分身体を出すだけ出した後は全力で逃亡して気配を絶っていた僕は無駄になってしまった隠遁を辞める。
「……デカくなるなよ、面倒な」
だが、僕の地獄はそれだけで終わらない。
黒い影は数多多くの僕が出した膨張を続け、この結界内を覆い尽くすほどの大きさへと変貌する。
「……ッ!?」
そして、そのままの勢いで黒い影がその巨大な体の中から幾つもの触手のようなものを伸ばし、こちらの方へと迫ってくるのに対して、僕は頬を引き攣らせながら逃亡の構えをとるのだった。
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