コーレン
「き、気づいていたのか……?」
さらりと告げた僕の言葉にギルドマスターが驚愕する。
「当たり前じゃないですか、あの三人ともびっくりするくらい露骨じゃないですか」
あれで僕のことを異性として好きでなかったのだとしたら驚きだろう。
フィーネとかもう独占欲を隠そうともしていないし」
「だとしたらもう少し対応を変えても良いんじゃないか?」
「変えたところでどうしようもないでしょう。大前提としてこの国では一夫一妻制ですから。制度的に恋愛関係に発展するのであれば、僕なんかがあの三人の中から一人選ばなきゃいけませんが、そんなこと出来る気がしないですね。色々な理由で」
僕はギルドマスターの問いに対して机の上に置かれている幾つもの依頼書を手に取って精査しながら答えていく。
「なので自分としてはさっさと三人から距離を取りたいわけですが……まぁ、許さないでしょうね、彼女たちは。一度だけ、独自路線を進もうと勝手に動いたこともありましたが、地獄絵図になりましたし。そして、そもそものことを言うとあの三人はあまりも愛が重すぎて単純に僕が引いちゃいます。友達としては良いですが、恋人になるのはちょっと……」
ルーエにしろ、ネアンにしろ、フィーネにしろ……いい子ではあるし、共にいて楽しい大事な仲間ではあるのだが、それが恋仲になるのとでは割と話が違うと思う。
「……つまり、ぶっちゃけると三人を端から恋人にするつもりないが、かといって彼女たちを拒絶して逃げ出したら実力的に死ぬので大人しくしているということか?」
「まぁ、まとめるとそうなっちゃいますね。かといって別に現状への不満がそこまであるわけでもないですけど」
改めて思うとクソ面倒だな、僕。
地雷系のメンヘラや愛の重いヤンデレの方が遥かに面倒じゃないだろう。
「君も……中々に難儀な性格をしておるな」
「まぁ、そうですね。僕は、目の前にあった壁を何一つも壊せずにただ逃げて寄りかかって、こんなところにまで来ちゃった男ですから……はぁー、自分で自分が嫌になってきますね」
「最初に会った時の自信に満ち溢れていた君が懐かしいな」
「あの頃は自分が最終的にあの三人を超えて自分が世界の主人公になるのを信じて疑っていませんでしたからね……今思うと若気の至りです」
「若気の至りと言いつつ、あの頃も輝いていたけどな」
「輝きを放つのは彼女たちで十分でしょう。僕はスポットライトが当てられるに値しない……それでは依頼としてはこれを受けますね」
僕は数多ある依頼書の中から一つの依頼書を選ぶ。
「わかった。いつも難関の依頼の選定、感謝する」
「これもすべてみんなのおかげですけどね。それでも自分の僅かな働きが皆さまの役に立てたのであれば幸いです。それでは自分はこの辺で失礼します。この後は依頼の準備をしてきますので」
依頼の選定を終えた僕は席を立ちあがって入ってきた扉ではなく窓の方へと近づいていく。
「それでは」
そして、そのまま僕は二階の窓から外へと気配を完全に消しながら着地する。
「えっと……次は、そうだな。まずは馬の確認の方でもしようかな」
地面へと降り立った僕はそのまま雑多な道の中へとその身を投げ出すのであった。
……
……………
コーレンは既に折れた男である。
己に才能が信じて疑わずに前進し続け、徐々に周りから置いていかれながらも踏ん張って努力し続け、それでも決して何者にもなれず、周りから寄生と嘲笑される中でとうとう折れてしまった負け犬である。
「……はぁー」
だが、だが、だが。
これは、そんな何者でもない───否、既に何者かではありながらも、英雄を前に挫折した一人の秀才が天才たちと並び立つまでの物語である。
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