精査

 ギルドマスターの言葉に従って僕はフィーネと共に彼の執務室へと入室していた。


「フィーネ。もう出てって良いぞ?後はギルドマスターとどの依頼を僕たちの冒険者パーティーである星霜の風で受けるかを決めるだけだからね。下にいる冒険者との交流を深めて来れば?」


 多くの人たちから寄せられた依頼書が置かれているテーブルを挟んで席につくギルドマスターの対面に座る僕は自分にもたれかかるようにして立っているフィーネへと声をかける。


「えっ?でも」


「こっから先はつまらないだろうし、誰でもできるようなこと。だからこそ、僕が任されているわけで……フィーネはみんなと会ってきなよ。しばらくここを離れていたミュゼちゃんも今日、ちょうど帰ってくる予定だからね」


「……ッ!?えっ!?ミュゼが!えっ、あ……ちょ、ちょっと……行ってくる!」


「うん、行ってらっしゃい」


 僕たち幼馴染以外でフィーネが最も仲の良いミュゼちゃんが帰ってくるという話を聞いたフィーネはここを離れて一階へと向かっていく。

 もうここに女性が現れることはないと判断したのであろう。


「……ふぅー。君の自虐癖は治らないのか」


 フィーネが完全にいなくなったのを確認すると共にギルドマスターが口を開く。


「別に自虐しているつもりはありませんよ。正当な評価です」


 それに対して僕は少しだけ眉を顰めて簡潔な答えを返す。


「そうかね?私はそう思わないが。君の行いは十二分に評価するに足るだけの能力があると思うが」


「戦闘面においても器用貧乏でしかない僕よりも優れたるサポーターなどいくらでもいるでしょう。僕の行っている事務作業、家事、会談などの雑事においても己の腕はプロよりも遥かに劣り、そして僕を仲間として報酬を分配するよりもそれら多くのプロを雇った方が安く済みます。僕がいる必要など何もないですよ」


 確かに、僕の行っているタスクは膨大であり、一人でこれをすべてハイレベルでこなせる人材は稀であろう。

 だが、そんな器用貧乏を重用するよりもその道のプロを何人も集めた方が上手く行くのは自明の理だろう。

 彼女たちが僕を追放したところで、よくあるなろう系の物語のようなざまぁは起こらない。


「僕が僕である必要はないのです。そこが、彼女たちとの最大の差です」


 ルーエも、ネアンも、フィーネも、彼女たちは特別な人間であり、ただ転生者であるだけでチート能力も特別な才能をもなかった僕は、世界を支えるに足るだけの特異点ではなく、社会の歯車でしかない。

 そんな僕が彼女たちと並び立つのは筋違いだろう。


「だが、彼女たちにとって君が君である必要があるだろうて」


 それでも、ギルドマスターは僕へと言葉を投げかける。


「そうである道理はありません」


「……君は、気づいていないのかもしれないが、彼女たち三人は君のことを確かに異性として好意を持っているだろう」


「あれだけ露骨で気づいていないのだとしたら馬鹿過ぎませんかね……?」


 僕は確信めいたことでも告げるかのようなテンションで告げられたギルドマスターの言葉に困惑しながらも素っ気なく言葉を返すのだった。

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