星霜の風

 ウンチを窓から投げ捨てていたという18世紀ごろの中世ヨーロッパ。

 恐らくはそこら辺の時代とそこまで変わらないであろうこの世界ではあるが、糞尿がまき散らされるということはない。


 それは江戸時代の日本のように糞尿を肥料として活用していたからというわけではなく、普通に魔法で処理しているからだ。

 水も流し放題だ。

 

 というわけで裕福ではない人間が住んでいる地域でも糞尿は散らばっていなく、匂いもそこまできつくない道を通って僕は周りの建物と比べてかなり立派な建物、冒険者ギルドへと僕はフィーネと共に足を踏み入れる。


「あっ、いらっしゃいませ」

 

 異世界のゲームやなろう系のラノベなどであれば大体出てくる冒険者ギルド。

 なんでも屋である冒険者の元締めとなる組織であり、様々なところから寄せられてくる依頼を集めて斡旋する組織だ。

 異世界におけるハロワに近いものと言えるだろう。


「って、星霜の風のコーレン様とフィーネ様ですね!上の方におあがりください」


 そんな冒険者ギルド、酒場と併設されている形となっている中へと入ってきた僕は中にいたウェイトレスの女性からVIP対応として、普通の冒険者が通される一階のカウンターではなく、最初から上階へと行くように案内される。


「……」


 ちなみに僕が女性から話しかけられたことに反応したフィーネはすすっと僕の方に寄ってきて腕を強引に組みに来ている……警戒しなくともフラグは出来ないよ。


「ありがとう」


 僕は接客してくれたウェイトレスの女性に通常のチップ代の二倍の金額を渡した後に二階の方へと向かっていく。


「ねぇ、あの女性に絆されたちゃだめだよ?多分、あいつはコーレンの持っているお金が狙いだよ?ロクな相手じゃないはずだよ」


「普通に仕事だよ。フィーネも来たら接客されるし、他の冒険者も接客されるでしょうしに」


「で、でもぉ!」


「でももクソもないでしょ、こんな些細な話に」


 僕は少しお店の人と話すのを目の当たりにしただけでヘラり始めるフィーネを宥めながら二階の方へと上がっていく。


「はっはっは、君たちは今日も通常運転で楽しんでいる様子ではないか」


 そんな僕たちを二階の廊下で待っていたのは一人の筋肉粒々の男。

 脳天は髪などなく綺麗な黒い光沢を放つ肌の焼けた男、この冒険者ギルドの長、オフィサである。


「これは、これは。ギルドマスター殿。わざわざ廊下の方でお待ちいただきありがとうございます」


「何のこれしき、君たちが相手であればこれくらい当然だろう。今日は依頼の選定であろう?」


 僕の言葉に対してギルドマスターは朗らかな笑みを浮かべながら頷く。


「はい、そうですね」


「既に私の部屋の方で目ぼしい依頼をピックアップしてある。さぁ、私の執務室の方へと来てくれ」


「よろしくお願いします」

 

 自分たちの前を歩く実に分厚い筋肉に覆われるギルドマスターの後を追って僕はフィーネと共に彼の執務室の方へと向かっていくのだった。

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