依頼

 昨日、僕がギルドマスターから受領した依頼は自分たちが暮らしているアレクセイ王国の王都、リオンから少し離れたところにある古都。

 数百年前に何者かの襲撃を受け、奪われたというアレクセイ王国のかつての王都の調査依頼である。


「……」


 古きより語られる古都の調査依頼。

 それは驚異の割に旨味の少ない依頼とされており、ずっと塩漬け依頼としてギルドの中に残り続けていたのだ。

 

「ふぅー。何もいないな」


 その依頼を受けて、自分のパーティーメンバーである三人と共有し、正式にそれを受領した僕たちは早速次の日には王都を出発して古都の近くにまでやってきていた。

 古都の近くに置かれている監視塔。

 そこに三人が滞在している間、僕は一足先に先遣隊として古都の方へとやってきていた。

 僕は器用貧乏なので、先遣隊として先に一人で調査したりなどは得意なのである。


「……」


 古都に立ちならぶ多くの建物は謎の植物によって覆われており、崩壊しつつある建物も強引に支えられている。

 生命の反応は一切なく、どこまでも静寂に包まれ───ッ!?


「ちぃ───ッ!」


 突如として己の中に走った嫌な予感。

 それに反応して慌ててその場を蹴った僕ではあるが、何かを喰らって足からわずかに出血してしまった。


「毒ではないな」


 幾つもの魔法で先ほどの攻撃に毒がなかったことを、否、毒だけではなくウイルスや細菌など自分の身体に異変を起こすようなものが何も混ざっていなかったことを確認した僕は小さな怪我の方から意識を外す。


「あそこか」


 そして、僕が視線を向ける先はかつての王城だ。

 攻撃が飛んできたところはそこである。


「双穹」


 僕は魔力を込めた右腕を宙へと滑らせ、魔力で彩られた光り輝く弓をその場に顕現させる。


「ミーティア」

 

 それを手に取った僕は素早く弓を弾いてこれまた魔力によって作られる弓矢を飛ばす。

 僕の矢は建物の方から伸びてくる幾重もの植物のつるを一瞬で貫いてかつての王城へと一直線に伸びてくる。


「ちっ」


 だが、その矢はかつての王城に当たるその直前に展開された結界に妨げられて散ってしまう。


「駄目か」

 

 そして、結界を貼った王城の次なる動きは攻撃。

 僕の方へと先ほどの小さなものではなく、完全に回避させるつもりのない巨大な火球が飛んでくる。

 その威力は当然、先ほどの一撃と同様に僕を簡単に殺すことが出来るだろう。


「召喚」


 僕はそれを見て迷うことなく両手を叩く。

 それと共に魔法が発動し、予め用意していたマーキング地点、古都を見張るために用意されている監視塔の中へと転移で逃げてくる。


「コーレンー、大丈夫だったぁ?よく頑張ってきたねぇ、お疲れ様ぁ」


「これを使って帰ってきたということは何か、敵がいたということだろう?つまり、そこに僕たちの敵がいるということだ……うーん?敵がいるから、敵がいる。……う、うん。そんなのどうでもいいな。そんなことよりもコーレンだ。お疲れ様。大丈夫だったか?」


「こーれんんんんんんん!大丈夫だったぁ!?怪我はない!?何か痛い思いは、ひゃあああああああああああああ!足が!足がァ!少しだけ傷がついている!大事なコーレンの足に!大丈夫?痛くない?平気?今すぐに治すね?天命の雫!」


 監視塔の中へと戻ってきた僕はそこで待っていた三人から抱き着かれて、もみくちゃにされる。


「誰もいなかったな」


 そんな最中、僕はそれらに一切意識を割かずに最後、己が王城で感じたことについて独り言を漏らすのだった。

 

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