ルーエ

「ん。おはよう。ルーエ」

 

 僕はリビングの方にやってきた少女、ルーエの方へと視線を送る。

 彼女は僕の所属している冒険者パーティーの前線担当であり、圧倒的な身体能力と剣才を持つ子だ。

 木の枝で山を切り裂くとかいう無茶苦茶な伝説も市井の間で語り継がれている怪物であり、それは何の才能もなかった僕とは雲泥の差である。

 

 それだけの力を有しながら見た目も完璧なのがルーエだ。

 垂れ目な緑の瞳にウェーブのかかった腰にまで伸びる金髪。

 そして、何よりも目につくクソデカいおっぱいが特徴的な少女である。


「今日のご飯はなぁに?」


「ドラゴンエッグを使ったフレンチトースト」


 僕は何故か冷蔵庫の中にあった大量のドラゴンの卵を使ってフレンチトーストを作っていた。

 一応、ドラゴンは小国であれば滅ぶ可能性もあるような強力な魔物であり、そう簡単に対処出来るような存在じゃないはずなんだけどねぇ。

 ちなみにフレンチトーストはこの世界にはないので、僕のオリジナル料理ということになっている。


「あぁー、私が適当に取ってきたドラゴンの卵、もう早速使ってくれているだねぇ。ふふっ、嬉しいぃ」


 だが、この程度で驚いていたらやっていられてない。

 ドラゴンの卵が冷蔵庫に現れるくらい割とよくあることである……我が家であれば。


「ドラゴンの卵はかなりの高級食材で美味しいからね。良いフレンチトーストになっていると思うよ。蜂蜜も良いやつだからね」


「それもこれも全部はコーレンの料理の腕が良いからだよぉ」


「……まぁーね」


 僕の作る料理はこの世界にはないけど、向こうの世界にはある料理ばかりだ。

 先人たちが作ってきた様々な料理を自分が創作者面してみんなの前に出して、褒められると言うのは中々に複雑な感情がある。


「ふふっ」


 割とネガティブなことを考えながら料理を作っていた僕のことをルーエはニコニコと満面の笑みでずっと見続けている。


「……そんなに僕のことを見てて楽しい?」


 そんな彼女に対して疑問の声を上げる。


「楽しいよぉ」


 それに対してルーエは即答する。


「このままずっと見ていたい」


「……そう」


 僕は好感度マックスのルーエの言葉に複雑な感情を抱きながら声を返す。


「今の私たちがあるのは、昔。コーレンが私たちを引っ張ってくれたから……だから、負い目を感じる必要はないんだよ。それに、今だって私たちを最高にサポートしてくれているしね」


 普段はゆるふわで何も考えていなさそうな見た目をしているくせに、ちゃんと僕が内心で複雑な感情を抱いていることを敏感に察するルーエは僕を慰めるかのような言葉を口にする。

 うーん、やっぱり僕のポーカーフェイスは駄目駄目だなぁ。


「うっさい」


「あたっ!?」


 そんなことを考えながら僕はルーエの脳天に優しくチョップを落とす。


「とりあえず他の二人も起こしてきて。朝食にしたいからさ」


「うーん。わかったぁ」


 ルーエは僕の言葉に頷いて他の二人のパーティーメンバーを起こしに行く。

 そんな彼女のことを見送った僕は皿の上に乗せた完成したフレンチトーストをもって、リビングに置かれているダイニングテーブルへと向かうのだった。

 

 ■■■■■


「……もぉー、やっぱり自分を卑下しちゃうんだからぁ。今だってコーレンは目立たないだけですっごく役に立っているし、ちゃんと有能なのにぃ。でも、満足しないのは流石ぁ……力になってあげたいけど、現実的な問題として難しいしなぁ。でも、私は今、すっごく幸せなんだよぉ?コーレンのことを守れて。ずーっと、ずーっと守ってあげるのにぃ」

 

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