目覚め

「……あー、ねむ」


 朝6時頃にスマホより鳴り響くアラームの音で叩き起こされた僕は

 結局のところ、高校に行く上で最も憂鬱なのは朝早くに起きなくてはいけないところだろう。

 そんなことを考えながらのそのそと朝の準備を行っていく。


「はぁー、なんで僕は理系選択にしたんだろ、普通に世界史好きだし、一年の頃も点数高かったから素直に文系選べばよかったのに」

 

 ぶさくさと文句を言いながら学校に行くための準備を整い終え、制服にも袖を通した僕はゆっくりと玄関に向かっていく。


「いってきます」


「あら?」


 そして、玄関の扉へと手にかけた僕にちょうどトイレから出てきたお母さんが声をかけてくる。


「どこに行くのかしら?」


 そして、何を言っているのか。

 よくわからないことを聞いてくる。


「え?学校だけど?」


 それに対して困惑しながらも


「何言っているの?貴方」


 だが、それに対してお母さんも困惑した様子で口を開く。

 そして───


「車に引かれて死んだじゃない」


「え?」



 ピピピ、ピピピ、ピピピ


 

「……あー」


 目の前にいたはずの自分の母親の顔にもやがかかると共に自分で作ったお手製のアラーム音と共に僕は夢の中へと沈んでいた自分の意識を徐々に覚醒させていく。

 意識が覚醒した僕の視線の先にある天井は前世の日本で暮らしていた頃の、今日の夢で起きたときに見た天井ではなかった。


「はぁー、ずいぶんと懐かしい夢を見たものだ。もう、既に十五年前なんだけどね。お母さんの顔を見たのは」

 

 ベッドに横たわる僕の体を優しく覆ってくれるグリフォンの羽で作られた羽毛布団を退けて体を起こした僕はため息交じりに率直な感想を漏らす。


「水よ」


 そして、ただ一言ですべての生命に宿る魔力を用いて発動する奇跡たる魔法によって、水球を作り出した僕はそのままそれに顔を突っ込んで顔を綺麗にする。


「……んっ」


 そしてナイトテーブルの上に並べてあるピアスなどの装飾類へと手を伸ばす。

 前世では進学校に通っていたこともあって一切の装飾品を身に着けたことのなかった僕も今では過保護な自分の仲間たちの圧に負けて魔法が込められた魔道具である装飾品を幾つもつけていく。

 ピアスに指輪にネックレスにブレスレット、少し歩くだけでじゃらじゃらする僕は自分の寝室から出て広い一軒家の中を進んでいく。


「灯せ、洗え」


 その道中にも幾つもの魔法を発動させて家の中に光を灯し、男物の洗濯ものに三人分の女物の洗濯ものもいっぺんにまとめて洗濯していく。


「作りますかぁー」


 前世においてただの一般高校生として暮らしていた僕は車にはねられて、異世界へと転生。

 そして、異世界らしく冒険者パーティーの一員として日々を過ごしている。

  

 まぁ、パーティー内の役割としては家事などの雑務がほとんどであり、己の実力面では圧倒的な天才である同じパーティーメンバーたちの足元にも及ばないほどに脆弱であり、追放系のなろう作品であれば追放される要素を役満で揃えている逸材だけど。


「……今日は何にしようかな」


 そんな僕は今日も今日とて任されている雑用をこなしていく。

 冒険者パーティーの雑用係の朝は早く、いつも朝五時に起きてみんなに活力を与えられるよう豪勢な朝ごはんを作らなくてはならないのだ。


「コーレンーっ!」

 

 せっせとパーティーメンバー全員分の朝食をこさえていたところ、リビングへと入るためのドアが勢い良く開かれる。


「わぁ……いい匂いぃ。コーレンの朝ごはん楽しみぃ」


 そして、自分の部屋から起きてきたパーティーメンバーの一人がリビングにいる僕へと顔を見せるのだった。

 

 

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