チート無しの転生者はヤンデレ幼馴染たちの冒険者パーティーから追放されたい~チートもない無能な僕は追放されたのに愛の重い可愛い幼馴染たちが離してくれません!~

リヒト

第一章

プロローグ

 まだ年若い時だった。

 貧しい農村に生まれた僕は常に自分の境遇が嫌で、抜け出すことを望んでいた。

 として現代日本の豊かさを知っていた餓鬼に中世から近世レベルの文明しかないような世界の貧しい農村で暮らしていけるわけがなかった。


『冒険者になろう』


 本当に小さな少年でありながら、義務教育並びに高等教育を終えるだけの知識が頭の中に詰まっていた僕はその知識でもって周りから格別した神童として扱われていた。

 そんな僕は貧しい農民としての立場から抜け出し、世界を巡りまわって富と名声を手に入れることを望んだのだ。

 そんな僕の言葉に自分の幼馴染たちが同調した。


 全員が快く頷いたのだ、死のリスクがある中でも。

 

 だが、僕はこの貧しい農村で暮らしていくのにも同じような死のリスクも存在していた、怪我に対して燃やして対処するような村で生きていける気もしなかったのだ。

 ゆえに、今となってもあの選択は後悔していない。

 

 そんな、一抹の希望───否、絶対の自信をもって農村を飛びだした僕たちは無事に冒険者になることが出来た。

 

 幼馴染のうち一人は圧倒的な技量と身体能力を持った天下無双の剣士となった。

 幼馴染のうち一人は圧倒的な魔力でもって多くの奇跡を起こす大魔導士となった。

 幼馴染のうち一人はどんな傷も治す天使だと勘違いされるほどの治癒士となった

  

 共に貧しい農村を出た自分の幼馴染はそれぞれが格別の才能を持ち、一流の冒険者となっていた。

 だが、僕は違った。

 どれだけ足掻こうとも僕には何の才能もなく、前世で培っていた知識量と年齢に見合わない思考力は成長と共に強みにはならない無用の産物へと成り果てた。

 転生者なのだから、当然───何かしらのチートがあると信じて疑わなかった僕に、ついぞ神が微笑むことはなかった。


 僕だけが、英雄になれるだけの素質を持ち合わせていなかったのだ。


 ■■■■■


 王都の一等地に建てられた立派な建造物。

 そこの最上階には広々とした部屋が広がっていた。

 奥には多くの書類が積み重ねられた事務用の机が見える中、僕と三人の少女が大きなテーブルを囲んでいる最中だった。

 テーブルの上には豪勢な食事と最高級の酒瓶が並んでいる。


「……なぁ、お前ら」


 そんな中で酒の入ったグラスを手に取る僕はゆっくりと口を開く。


「僕はみんなと違って何の能力もなく、雑用くらいしか出来ない……正直に言って、足手まといにしかなっていないんだ。僕のような何もしていない無能はパーティーに要らないんだ。僕を追放してほしい」


 幾度思っただろうか。

 常に悩みの種だった英雄に相応しい実力を持ち、栄光の道を進み続ける幼馴染たちに僕は相応しく、ない。


「もぉー、コーレン。酒を飲んでの冗談にしては質が低いぉー?前に約束したじゃん。ずぅーと一緒にいるってぇ。大きくなってもぉ、おじいちゃんおばあちゃんになってもぉ、死んだら一緒に抱き合って火葬場に入ってぇ、一緒に誰が誰がわからなくなるようにお骨も一緒になってぇ、まったくもって同じお墓に入るぅーって。そう約束してぇー、それにコーレンだって頷いていたでしょ?ねぇ、そうでしょう?それなのに私たちの元から離れて一人で生きていこうとなんてしないよね?するわけがないよね?そうだよね?あっているよね?そんな私たちを裏切ろうとなんてするわけがないよね。ありえないよね?そうだよね。私たちから離れたいなんていうわけがないよね。ほら、私に続いて言ってみて?パーティーから追放されたくなんてないし、ずっと一緒にいたいって」


「ん?何を言っているんだ?コーレン。もう一度言ってくれないか?パーティーから追放してほしい?そんなの冗談であっても口にしないはずなんだ。僕たちは永遠に一緒なことは生まれる前から決まっている不変の事実であろう?何をとち狂ってそんなことを言い出したんだ?コーレンが僕たちのことを嫌いになるなんてありえないし、一緒にいたくないんと思うなんてありえないんだ。そう。ありえない。ありえないありえないありえないありえない。あぁ、そうだ。そうなんだよ。それで、もう一度、聞かせてもらえるかな?今、なんて言ったのかな?」


「ど、どうしてそんなこと言うのぉ!?う、うちが何かした!?そ、そんな嫌だよぉコーレンから嫌われるなんて嫌だよ!コーレンのいない世界なんて嫌だよ!うちが何かして、嫌な気持ちにさせたのなら謝るから!一生懸命その欠点も治すから、うちってば治すのは特異なんだよ。ねぇ、だから!お願い。お願いだよ、ずっと一緒にいてよ。死ぬまでずっと一緒にいてよ!お願い、捨てないで、捨てないでよぉ!コーレンの為ならば何でもするから!だからぁ!うちたちのパーティーから追放してほしいなんてこと言わないでぇ!」


 共に戦うパーティーの中で何の才能もない役立たずであり、足を引っ張るだけの存在はパーティーから追放して、新しく優秀な人を仲間に向かい入れるべきだ。

 そんな至極当然とも言える僕の些細な願いは濁流のように溢れてくる幼馴染三人の言葉によってあっさりと流されてしまうのであった。

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