第5話 魔王様は部下と揉めたくなんかないのに。(後編)

 俺は異空間魔法を使って、早速北方へ移動してきた。


 だだっ広い荒野に雪がちらつく。さすが北方。魔王城のある中央部とは寒さが違う。


 さて、脳筋ガイゼルはどこか……探そうと思ったら、すぐ近くで叫び声と共に、岩山が破壊される音がした。どうやらあいつはそこで暴れているらしい。


「おい、ガイゼル。いいかげんにしろ!」

「魔王様! どうして人間界への道を塞いじまったんだよォ!」


 脳筋ガイゼルはその名の通り、筋肉だけが取り柄の魔族だ。力こそパワーとか訳のわからんことを言って、人間界で暴れまくっていたのだ。だったら魔族同士で争えばいいのに。俺は、争いは嫌いだけど。


「向こうの国王と約束したんだよ。我慢してくれ、ガイゼル」

「無理無理無理無理! 俺のこの有り余る筋肉をどこにぶつければいぃンだよォ!」

 

 ガイゼルは目の前の岩山に額をガンガン打ち付ける。この筋肉バカは脳まで筋肉なものだから、寝ているとき以外はパワーを放出していないと気が済まないらしい。


 うーん、こんな脳筋をこれまでよく野放しにしていたな、何かいい策でもあればいいのだが……。そうだ。


「ガイゼルよ、いい考えがある」

「?」



 ◇



「ただいまより、魔界最強決定トーナメント戦を行う!」

 ワアアアアア!


 北方に建てられた円形闘技場。そこには大観衆が詰めかけている。


 魔界中から力自慢や魔法自慢、筋肉自慢(はカイゼル一人だけ)が集まり、闘技場で総合力を競い合うのだ。


 魔族同士で殺し合う訳じゃない。ちゃんと戦いにはルールがあるし、審判もいる。そして救護班もバッチリ控えている。


 脳筋ガイゼルは魔族の猛者どもと全力で戦うことができるとあって上機嫌だ。他の参加者も自分の実力を試したいとやる気十分である。


 よし、この魔界最強決定トーナメントを定期的に開催していけば、ガイゼルのような脳筋も鬱憤うっぷんがたまることはないだろうし、観衆も楽しむことができる。これでまた魔界に平穏が訪れることだろう。


 俺? 俺はもちろん出場しない。なぜかって、わかるだろう?

 魔王専用の席で、優雅にコーヒーとクレープを楽しみながら戦いを観覧するのさ。

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