第4話 魔王様は部下と揉めたくなんかないのに。(前編)

 今日のスイーツはコーヒーとクレープ。先日人間界で買ってきたものがあまりにも美味しすぎたので、異空間魔法を使ってこっそりまた買ってきた。当然、二つ。


 ああ、この薄いけどふわふわで黄色い生地が重なっているのを一気にかぶりつくのがいいんだよなぁ。その中に入っている果物やアイスやクリームが口の中に広がるのもたまらない。早速、いただきま……


「魔王様、北方で脳筋ガイゼルが暴れています」


 またしてもスイーツを頂こうとした瞬間に邪魔が入る。側近のギースがそう言って部屋へ入ってきたのだ。

 俺は食べたいのを我慢して、あくまでも冷静にクレープを皿に置き、ギースの方を向いた。


「ああ、あいつか。人間界に行ってよく悪さをしていた――」

「ええ。先日、魔王様が人間界との道を閉じられましたから、力をどこにぶつけていいかわからなくなっているようです」


 人間の国王と約束した通り、魔族が人間に危害を加えないようにするために、魔界から人間界へと繋がる道を封鎖したのだ。これで魔族は人間界へ行くことはできない。俺だけは――魔王だけは異空間魔法が使えるから、それで移動することは可能だ。だけど、もちろん他の者へはこっそり人間界へ行っているなんて言えるわけがない。秘密だ、秘密。


 もしもそれがバレたりなんかしたら「魔王だけ人間界に行って好き勝手するのはずるい!」と反乱がおきることだろう。俺が人間界に行っているのを知っているのは側近のギースだけである。もちろん、誰にも口外しないようにクレープで手を打ってある。


「わかった、ちょっと北方へ行って、ガイゼルと話をしてくる……このクレープは俺のだからな。食べるなよ、ギース」


「……それはもしかしてフリ、ですか?」


 ギースが嬉しそうに笑顔を見せる。俺は彼の反応を無視して、真顔で尋ねる。


「お前、もしかして俺が食べるタイミングを図って声をかけたか?」

「……なんのことでしょう?」


 くそ、ギースめ。食べる瞬間を狙って声をかけやがった。あの顔は絶対そうだ。

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