第6話 魔王様は派閥争いとか興味がないのに。(前編)

 さて、今日のスイーツはコーヒーにシュークリームだ。最近のシュークリームは、中のクリームが二層になっていたり、外側がシュー生地だったりと色々工夫がなされているから、食べていて飽きることがないんだ。ちなみに今日のシュークリームはごく普通のものだ。


「いただきま……」

「魔王様!」


 バン! と勢いよく扉が開いて、ドレスを着た少女がやってきた。彼女の後ろには貴族と思わしく魔族の姿もあった。

 俺は大きく開けた口を閉じ、そっと皿の上にシュークリームを置いてから、「何事だ?」とあくまで平静を装った。


「私、魔王様の花嫁候補の一人、アレイアでございます。どうぞお見知り置きを」


 アレイアと名乗る少女は、深々と頭を下げる。そして後ろにいた貴族が言う。


「魔王様もそろそろご結婚されてもよいかと。その際はぜひ、我が娘をお選びくださいまし。これまで、どこに出しても恥ずかしくないように礼儀作法から魔法の使い方までしつけけて参りました」



 は? 花嫁候補? 何の話だ?



 すると、開いていた扉の向こうから次々と女性と、その父親と思わしき魔族が入ってくるではないか!


「イリーと申します」

「ウーファンです」

「エリザベスでございます」

「……でございます」


 もう最後の方は名前すら聞いていなかった。なんだこの大勢の花嫁候補とやらは? とにかく俺のシュークリームの時間を邪魔しないでくれ!


 俺はできるだけ丁重に断りを入れて、全員退出してもらった。魔族たちは「せめて食事だけでもご一緒に!」とかなんとか言っていたが、そんなのお断りだ。食事こそ一人でゆっくり食べさせてくれ。


「大変でしたね、魔王様」


 側近のギースがシュークリームを頬張りながら近づいてきた。おい、それ俺が冷蔵庫にしまっていた明日の分……くそ。


「なんだったんだ、今のは」

「貴族たちはなんとかして自分たちの地位をあげようと、自分の娘を魔王様のきさきにしようとしているのです。昔からある政略結婚とかいうやつです」


 地位を上げる……そんなことをしていったい何になるというのだろうか。自分の娘が魔王の妻になれば、自分も偉くなれると思っているのか。そんなことないのに。

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