第7話 魔王様は派閥争いとか興味がないのに。(後編)

「魔王様、先日ここを訪ねてきた貴族たちの争いが激化しています」


 そう言って、側近のギースが皿の上の乗っていたカヌレを一つつまんで、ひょいと口の中に入れた。おい、それは俺の――。


「どういうことだ?」

「あのバカ貴族たちは、自分の地位向上のため、あらゆる手を使って他の貴族の娘を蹴落とそうとしているようです」


 あの問題はまだ解決していなかったのか。俺は、「まったく……はぁ」と一つ息を吐く。

 ギースがまた一つ、カヌレを口に入れた。


「どうです? せっかくだから全員と結婚されては?」

「は? 何言ってんだ」

「でもそうしないとバカどもの争いは終わりませんよ。そもそも魔界には魔王様がいれば十分で、貴族なんて必要ないと思いますけどね」


 ギースは誰も聞いていないと思って貴族たちのことをバカ呼ばわりしている。


「貴族の地位をとりあげてもいいんだが……」

「でもそんなことすると、貴族たちが猛反発するでしょうね」


 現在、魔界に存在する貴族は5人。それぞれが魔王に次ぐ魔力を持ち、これまでも魔王直属の部下として働いてきているという。俺が魔王になってからは主だった活動をしていないから、なんとかして他の貴族を出し抜きたいんだろうな。


 だったら。


「よし、いい考えがある」


 ギースが口をもぐもぐさせながら首を傾げた。口をもぐもぐ?

 あ、俺のカヌレが全部なくなっているじゃないか!



 ◇



「なるほど、魔界を五つの地域に分けて、それぞれを貴族たちに治めさせるという訳ですか。考えましたね、魔王様」

「そうすれば、貴族たちも一国の主ということで満足してくれるだろう」


 こうすることで、貴族たちも不満がなくなるはずだ。そして、魔界を治めるという魔王の仕事を全て貴族たちが行ってくれるので、俺は悠々自適に過ごせるという訳だ。ふふふ、人間界に行ってスイーツを物色する時間も増える――フハハハハ!


「でも今度は領地争いが始まったりして……」

 ギースの不安げな言葉に、俺は首を横に振った。


「心配するな。『そんなことを考えたときには俺が全力で潰す』と伝えてある」

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