第8話 魔王様は推し活とか興味ないのに。

 魔王城には、魔王様のお世話をするメイドが数十人働いている。部屋の掃除や食事の準備、洗濯など家事全般を任されている。魔王城で働くことは魔族にとって名誉であり、待遇も良いこともあって競争率は高い。そんな中で、よこしまな目的でメイドになった魔族の少女がいた。


「はああぁ! 魔王様、今日もかっこいい!」


 新人メイドのボニーである。彼女は偶然出会った魔王様に一目惚れし、なんとかお近づきになりたいと、この職についたのである。


「こらこら、心の声が漏れているわよ、ボニー」


 彼女の教育係でもある先輩メイドのカーラが軽くたしなめる。しかし、実はカーラも魔王様のことを密かに狙っていたのである。


 ――私の方が魔王様を長くお世話しているのよ! 小娘ごときに魔王様はわたさないんだから!



 ◇



「ああっ、魔王様いけませんわ、そんなこと!」


 魔王様のベッドシーツを洗濯しながら、ボニーの妄想は激しさを増す。気がつけば洗濯する前のシーツや枕カバーを顔に思いっきり押し付けて匂いを嗅いでしまっていた。


 近くにいた他のメイドたちは、ボニーの行動にドン引きしながらも、全員が同じことを思っていた。


 ――それ、私もしたかったけどできなかったやつ!



 ◇



「何をしているの、ボニー」

 休憩時間。机の上でせっせと作業しているボニーに、先輩メイドのカーラが声をかけた。


「あっ、これ魔王様のお人形を作っているんです! 自分の制服につけておけば、魔王様とずっと一緒にいられると思って!」


 ボニーの一言に、他の休憩中のメイドが「それだ!」と思った。これまで、従順に仕事をこなしてきていたメイドたちに、少しずつ変化が起き始めたのである。



 ◇



「魔王様、最近メイドの間で推し活が流行っているのをご存知ですか?」


 チーズケーキを食べ終わり、コーヒーを飲んでいるときに、側近であるギースが俺に話しかけてきた。


「推し活? 誰の?」

「あなたのですよ。魔王様が好きすぎて、人形を作ったり、顔写真入りのうちわを作ったり、アクリルスタンドを制作しているようです」


 俺は思わずコーヒーを吹き出してしまった。


「き、聞いてないぞ、そんなの!」

「あまりのクオリティの高さに、今度魔界全土に売り出すそうです。よかったですね、魔王様」

 

 メイドたちが最近俺を見てこそこそしているのは、それのせいだったのか!

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