第9話 魔王様は次期魔王なんて求めてないのに。

 今日のスイーツはパフェ。側近のギースは初めて見るらしく、俺が食べる様子を物珍しそうに眺めている。ふん、そんな欲しそうな顔をしても絶対にあげないからな。パフェを美味しく食べるコツは、中間層に敷いてあるコーンフレークを、その上にあるアイスとうまくミックスさせることだ。そうすることで冷たく甘いアイスにコーンフレークの食感が合わさって美味おいしさが倍増するのだ。


 フハハハハ、ギースよ。美味うまそうだろう? ここがパフェの中でも一、二を争う美味おいしさの瞬間なのだ!

 俺がスプーンにコーンフレークの混ざったアイスを乗せ、これ見よがしに口に運ぼうとしたときだった。



「魔王はいるか!」



 バン! と勢いよく扉が開いた。突然のことにびっくりして、思わずスプーンを落としてしまった。机の上に、今まさに口に入れようとしていたアイスがこぼれる。


「誰だ、君は!」


 落ちたスプーンとアイスを見て、固まっていた俺に代わって、ギースが代わりに言った。すると部屋に入ってきたバカ魔族の偉そうな声が聞こえてきた。


「俺様は次期魔王になる予定の、暗黒騎士グノス! 魔王グリムを倒し、魔王の座を奪いにやってきた!」


 声からするにまだ若い。きっと血気盛んなお年頃で、自分が魔界で一番強いと勘違いしているんだろう。


「魔王を倒すって、君は魔王に戦いを挑む気ですか?」

「おう! 今すぐにここで戦うつもりでやってきた! 貴族に各地域を治めさせたり、グッズ販売を始めたり、そろそろ引退するつもりでいるんだろう? 魔王の座、俺様が代わってやるよ!」

「やめた方がいいと思いますよ……特に今は……」


 ギースがなんとかあきらめてもらおうと優しく声をかけるが、この阿呆は止まるところを知らなかった。


「コラ魔王! 下ばっかり向いてビビってんじゃねぇぞ!」

 すまんギース。俺はもう我慢の限界だ。


「グノスとやら……(俺のパフェの邪魔をした)覚悟はできているんだろうな」


 ゴゴゴゴゴ……俺の怒りで魔王城が揺れた。



 ◇



「いやぁ、魔王様さすがですね、一睨ひとにらみしただけであの若者はちびって逃げて行きましたよ!」

「フン! 俺のパフェの邪魔をするのがいけないんだ」

「あれ、魔王様に挑んできたことに怒っているんじゃなかったんですか?」

「そんなことあるか。俺より強い魔族がいたらいつでも魔王の座は譲ってやるさ」


 だってその方が平穏に暮らすことができるからな。

 あ、異空間魔法が使えなくなるのは……ちょっと困るかな。

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