最終話 魔王様は平穏に暮らしたいのに。

「人間との問題も解決した」

「ええ、ですが魔王様。今日の午後から、常連客代表として新作スイーツの発表会に出席する予定になっておりますよ」


「脳筋魔族たちも闘技場で力を発散できている」

「ええ、ですが魔王様。明日の第20回記念大会で、魔王様がエキシビジョンマッチに参戦するということでしたよね?」


「貴族たちも自分の国を持ち、満足している」

「ええ、ですが魔王様。このあと、その貴族たちを交えての定例会議が行われます」


「メイドたちの推し活は……まあ、ちゃんと仕事をしてくれれば問題ない」

「ぷっ……ええ、ですが魔王様。来月発売予定の魔王様ポスターの写真撮影が明後日となっています、できればその前に魔王様フィギュアの発売前の最終チェックもしいとのことでした」


「次期魔王を狙う若者も、少しは自重してくれているようだ」

「ええ、ですが魔王様。若者たちの間では『魔王に挑む前に貴族たちを倒さなくては』と、その矛先が貴族たちに向かっているようで、なんとかしてくれと相談を受けています」



「……なんでだ?」

「どうかなさいましたか、魔王様?」


「どうして俺は前よりも忙しくなっているんだ!?」


 机の上には、今日もコーヒーとスイーツがおいしそうに並んでいる。今日のスイーツは、わざわざ人間界に行って買ってきたプリンだ。これを食べるために、わざわざ人間界で1時間以上並んで手に入れたんだ。


 スプーンで一口分すくうと黄色いプリンが、そしてきらりと輝く黒いカラメル部分がぷるぷると震える。いやぁ、これは見た目にも楽しめるスイーツだ。果たしてどんな味がするのか楽しみだな。では。いただきま……


「魔王様! 助けてくださいまし!」



 口に入れる直前で、またしても邪魔が入る。側近のギースは笑いを堪えながら「魔王様、客人です」とか言っている。

――こいつ絶対、俺が食べるタイミングを見計らって客人を部屋に招いてやがるな――


 ああ、もうしょうがない! なんだ用件は!

 早く終わらせて、俺はスイーツが食べたいんだ!

 

<完>

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