第2話 魔王様は交渉なんてしたくないのに。
今日のおやつはコーヒーにバニラ・アイスクリーム。魔界で栽培されているバニラビーンズを使った高級品だ。それなのに。
「魔王! 今日こそは、お前を倒して世界を平和――」
俺はいつもの勇者がセリフを言い終える前に異空間魔法を発動させて、彼を人間界へ追い返した。
ここ最近、勇者がくる頻度が増えた気がする。きっと人間界の国王が「早く魔王を倒せ」とか急かしているんだろう。だとすると、また近いうちに俺の平穏な時間をぶち壊しにくるはずだ。だったら――
「魔王様、どちらへ?」
アイスを堪能した後、再び異空間魔法を発動させた俺の背後から、側近のギースが声をかけてきた。ああ、できれば気づかれずにことを運びたかったんだが。
「ちょっと人間界の国王に会ってくる。心配するな、争いは起こさない」
「あっ、魔王様それなら――」
ギースにごちゃごちゃ言われる前に、俺は黒い渦の中に飛び込んだ。
◇
「ままっ……まま魔王グリム! どうしてここに?」
人間の国王がビビるのも当然だろう。いきなり目の前に敵対している(と勝手に人間どもが思っているだけなのだが)魔王が現れたのだから。
国王の周りにいた兵士たちが一斉に武器を俺に向ける。ま、こちらは戦う気など全くないのだが、そんなことを言っても無駄だろう。とりあえず、兵士たちの攻撃が通らないようにバリアを貼っておく。幸い、兵士たちは武器を構えているものの、なぜか俺にビビって足がすくんでいるようだった。
「国王……頼みがあってきたんだ」
「なななな、なんだ! わ、ワシの命が狙いか?」
「そんなこと誰も言ってない。勇者を魔界に送り込むのはやめろ。俺は無駄な争いはしたくないんだ」
「しかし……」
「俺たち魔族も人間に危害を加えないことを約束する。だから……わかったな?」
「……」
「返事は?」
「は、はい!」
よし、これで勇者が俺のおやつタイムを邪魔することはなくなるはずだ。俺はニコッと国王に笑顔を見せて、その場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます