魔王様は平穏に暮らしたいのに。

まめいえ

第1話 魔王様は勇者と戦いたくなんてないのに。

「魔王よ! 今日こそお前を倒して世界に平和を取り戻してみせる!」


 ここは魔王城の俺の部屋。

 せっかくコーヒーとパンケーキで優雅なおやつタイムを、と思っていたところに、勇者がやってきた。どうにも、こいつは世界が平和じゃないのは魔族のせいだ、魔族を束ねる魔王――つまり俺のことだが――を倒せば、再び世界は平和になるんだ、と思っているらしい。


 そんなことあるか。馬鹿馬鹿しい。


 とにかく俺は静かに暮らしたいんだ。争いもねたみも何もない世界で、今はただコーヒーとパンケーキを味わいたいだけなんだ。


 俺は口に近づけていたコーヒーカップをゆっくりとテーブルに置き、メープルシロップが染み込んだパンケーキを早く食べたいなと思いながらも、席を立った。


「毎度のことだが、争いは何も生まない。いい加減学習したらどうだ、勇者よ」

「うおおおおお!」


 だめだこいつ。俺の話を聞こうともしない。何が平和を取り戻して見せる! だ。自分が平和を乱す存在であることに気づいていないじゃないか。


 俺は剣を振りかざし突進してくる勇者の目の前で、異空間魔法を発動させる。


 空中に突如浮かんだ黒い渦。勇者は勢いよくその渦に突進していって、この場から消え去った。ああ、心配しないでほしい。人間界の王宮、王の間に転移させただけだから。


「ふう、これで俺のおやつタイムを邪魔するものはない」 


 改めて椅子に座ると、俺はコーヒーとパンケーキを堪能した。

 うん、染み込んだメープルシロップがたまらなく美味しい。

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