第30話 RG 1/144 ウイングガンダムゼロEW
顧問の先生と食事を摂っていると、レイジの顔が見える。
「よぉ。ここで祝勝会か? 俺様に勝っているからっていい気になりやがって」
「ただの食事だよ。意味なんてない」
「はっ。テメーはムカつくな。来年はこうはいかねーぞ」
「そう願っているよ」
「ちっ。テキトーなこと言いやがって。明日の審査が楽しみだな」
そう言って去っていくレイジ。
「何が言いたかったんだ……」
「強がりでしょう?」
伊織は気にした様子もなく、ラーメンをすする。
髪がスープにつかないようにかきあげている。
その姿がいじらしい。
ドキッとしてしまった。
ガン。
脇腹に何かがぶつかる。
隣に座っていた天野さんが肘鉄をしたのだ。
痛い。
どいうわけだよ。
今回のコンテストに参加してから、天野さんはよく分からない怒り方をする。
僕としてはちゃんと言葉にして欲しいのだけど。
それもままならない。
聞くのも怖い。
なんだか、この関係が崩れてしまいそうで。
「それで、民也はどうして自分の強みである原作再現をしなかったのさ?」
伊織はじっとこっちを見る。
「そうだね」
少し考えてみる。
天野さんの作風を見て、刺激を受けたのは確かだ。
「うん。きっと天野さんの作品が自由だったから、作ろうと思ったんだと想う」
目をぱちくりさせて伊織は吹き出す。
「ははは。なんだよそれ。のろけか?」
「いや、そういうんじゃなくて……」
僕が伊織の言葉を否定するとぷくーっと膨らむ天野さん。
頬は膨らんでも、胸は膨らまないんだね。
なんて言える訳ないか。
僕はだまって唐揚げを頬張る。
「万代くんはおバカです」
ぷいっとそっぽを向く天野さん。
食事を終え、僕はお風呂場に向かう。
一人でお風呂に入っていると、隣の女子風呂から声が聞こえてくる。
「それで。民也のこと好きなわけ?」
伊織のツンとした声が響く。
「まあ、でもそれはあなたもでしょう? 伊織ちゃん」
「分かっていたなら、性格ひん曲がっているね」
「どうせ、わたしはひん曲がっていますよ。でも万代くんは渡さないんだから」
「天野ちゃんはそれでいいんじゃない。私も遠慮しないし」
もしかして天野さんも伊織も、僕のことが……好き?
その驚きに顔が熱くなるのを感じる。
僕は早々にお風呂からあがる。
部屋に戻ると、僕はエアプラモデルを始める。
ウイングガンダムゼロ
その繊細な羽を丁寧に作り込む。
が――。
「天野さんも、僕のことが、すき?」
かーっと熱くなるのを感じ、全然集中できなかった。
翌日、会場の自分のブースに集まる僕たち。
天野さんは離れ、中央ステージでアイドルをやっている。
歌って踊って、観客の気を引いている。
あれだけキレのあるダンスはそうとう練習が必要なんだな、としか分からない。
歌も伸びがあり、綺麗な歌声だ。
他のメンバーも声がいい。
アイドルとプラモデルを合わせた最高の曲が流れてくる。
自然と笑みが零れる。
と、そこへ審査員が立ち寄る。
「ふむふむ。これは想像力が爆発しているねー」
「そうですね」
「このブースは二日目に事故が遭ったそうな」
「そうです。だから天野さんと僕の合作です」
「それにしてはできがいいね。まるで最初から想定済みだったかのような色合いだ」
天野さんのストライクも僕が見ていた。
関係ないわけではないだろう。
「そうですね。かっこよいからいいと思います」
「……なるほど。いい作品だ。君達の心が現れているようだ」
審査員の目が光る。
「そうですね。これはプラモデルにかける想いを表しました」
「そうかな? 愛情もあるのでは?」
「あいじょう?」
「友愛、恋愛、家族愛。そんな気持ちが強いように想えるよ」
審査員はクツクツと笑う。
「そう、ですか……?」
「ふふ。君にはちょっと早かったか」
審査員は手元の紙に何やらメモをとり、去っていく。
審査の結果を発表するのは午後閉会式の中で行われる。
それまでは僕たちは他の高校生たちと交流を深めるチャンスでもある。
僕はブースから立ち上がり、周囲のプラモデルを見やる。
「お。ウイングゼロ」
タイムリーな機体だ。
僕はそのウイングゼロに惚れる。
壊れかけで、ツインバスターライフルで核シェルターを撃ち抜くシーンを再現している。
反動で壊れていく様は格好良くも切なさが混じっている。
「いいね」
「でしょう? うちのネネが作ったんです」
「ネネっす。しかし、このコンテスト楽勝っす」
「どういう、意味?」
僕は眉根をあげて訊ねる。
「だって、こんなにみすぼらしいモビルスーツだらけっすよ」
「それはキミの個人的な感想だね。僕にはどれもかしこも素敵な作品だと想うよ」
「ふっ。見る目がないっすね。どれもヒヨっていてみっともないっすよ」
「じゃあ、僕のプラモデルを見るかい?」
「いいっすよ」
ネネをブースに呼び、ストライクガンダムとアクセルストライカーを見せる。
「……ふーん。確かに他の連中とは違うの、わかるっす。でも――」
ネネは下卑た笑みを浮かべる。
「その程度っすか?」
「くっ。ミーティアストライカーさえ、できていれば」
「なんっすか? それ」
「ちょっとまっていて」
僕はブースの奥に閉まったミーティアストライカーを用意する。
完全ではない。
作りかけのもの。
それを見たネネは少し息を呑む気がした。
「ふ、ふん。そんなの見せられたって……」
「これはフリーダムやジャスティスに使われていたミーティアをダウンサイジングして、核動力なしでも扱えるようにしたもの」
「つまり」
「つまり、操作性を重視した一般モデルだよ」
「クレーン車よりも一般車というわけっすか」
ネネはむむむとうなる。
「ほう。なかなかいい出来映えじゃねーか」
「レイジ」
「そっちのミーティアストライカー。さっさと完成させてくれよ。俺様も見てみてー」
ぞわっとする感覚が押し寄せてくる。
「分かった。でもかっこよさに負けないでよね」
「はっ。何様だ。俺様に勝てるわけねーだろ?」
レイジは中指を立てて威嚇してくる。
「負け犬ほどよく吠えるっす」
「なんだと? このちんちくりん」
「いいえ。別にあなたのことを言ったわけじゃないっすよ?」
ネネとレイジがいがみ合っている中、僕はミーティアストライカーをしまう。
「レイジのガンプラもみなよ、ネネさん」
「……それもありっすね。見せてくださいっす」
「分からせてやる」
レイジがそう言い、自分のブースに向かう。
「これが俺様のガンプラだ」
百式の色違い。
百二式。
「……なんっすか? これ」
「「はぁ!?」」
想わず僕とレイジの声が重なる。
最高の百式はこれしかないと思っていたのに。
「色違いなんて使い古された技術っす。最新の技術を使わないと、ガンプラが可哀想っす」
「そんなことない。プラモデルは己の心を現すもの。だから、これにはレイジくんの力が、意思が乗っているんだ」
「……そんなことないっす。最新の技術を使うのがモデラーっす」
「それはモデラーの傲慢じゃね?」
レイジも思うところがあったのか反論する。
「なら、今日の発表で確認するっす」
「ああ。いいだろう」
「僕も異論はないよ」
バチバチと互いの視線に火花が散っている気がした。
いや気のせいではないのだろう。
ガンプラにかける思いはみなあるのだから。
だから、勝てなくとも最高のガンプラを作った。
最高で最強のガンプラを。
それだけが僕たちの夢だから。
ガンプラは自由だ。
それもいい。
だが、ガンプラは格好良くあっていい、とも思う。
これは僕の信念であり、僕の作る意味だ。
だから、ネネにも負けないつもりでいる。
僕は最高のモデラーになるのだから。
父の言ったガンプラは格好いいと。
その思いを胸に刻んで作ってきた。
今後もその意思は変わりない。
最高のモデラーを目指して僕たちは歩み続けているのだから。
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