第29話 HG 1/144 シナンジュ

 天野さんが思い付いた考えにうなずく。

「うん。やってみよう」

「でもアクセルストライカーは二軸じゃない。一軸のストライクには……」

 部長が力なく首を振る。

「いいや。なぜストライカーを名乗っていると思う?」

「まさか!」

「そうこいつは本来ストライクガンダムに装備するもの。アタッチメントがある」

 ニ軸を一軸に変更する変換器も制作していたのだ。

 エールストライカーに似たアタッチメントを取り出す。

「こいつが」

「僕の、」「わたしの、」

「「ガンプラだ!」」

 ドッキングしたアクセルストライクガンダムは、今まで以上に輝いてみえた。

「最速のガンプラ」

「最強のストライク」

 ひゅっと息をのむ音が聞こえる。

「それが、テメーらのガンプラかぁ!」

「レイジ」

「ククク。最高だ、ああ最高だ! テメーには来年挑むさ」

 仰々しく肩をすくめるレイジ。

「キミ……」

「は。来年はテメーの最大限のガンプラを見せてもらうぜ!」

「無理だね」

 僕は皮肉げに顔を歪める。

「来年も僕が勝つ」

「ククク。おもしれー。最高にハイってやつだな。しかし、どんだけ自信あんだよ」

「来年までには時間があるからね。それまでに本物を用意するよ」

「本物、おもしれー。おもしれーぞ! 貴様!」

 ゾクゾクと震える。

「俺様が貴様に花を持たせると思うか?」

「なら一緒に目指そう」

「……貴様。やっぱりムカつくぜ。来年は嬢ちゃんと結婚させてもらう」

 レイジはそう言うと、天野さんにこうべを垂れる。

 踵を返し、自分のブースに戻っていくレイジ。

 その代わりに双子がくる。

「なんだ。このいかがわしいモビルスーツは!」

「は!」

「どういう意味?」

「そのままの意味だよ」

「だよ」

「キミは勝てない。このシナンジュでボクらが勝つ」

「勝つ」

 シナンジュ。

 赤い機体。

 確かに格好いい。

 しかもエングレービングが細かく塗装されている。

 あの白色のラインを再現するのは非常に難しい。

 どれほどの腕前を持つというのか、一つの指標になるとも言えるだろう。

「格好いいでしょう?」

「でしょう?」

「まあ、認めるけど……」

「なんにも分かっていないわね。ガンダムはファーストが至高。それ以外は邪道よ」

 部長がそう言うと、シナンジュを指さす。

「それもシャアザクの影響を受けているって、わからない?」

「それを言うなら、ストライクガンダムなんて」

「なんて」

 双子がこちらに視線を向けてくる。

「わかっているって。彼もファーストの至高さはわかっているはず」

「いや、わからんけど」

 眉根を跳ね上げる部長。

「いやいや、キミ。本気で言っている? あの高大名声な作品を、本当に理解していないの?」

「はい」

「ちょっとこっち来なさい」

 部長は僕の首根っこを捕まえると、奥の控え室に向かう。

 しばらく部長に宇宙世紀のなんたるかを教えこまれていた。


「はは。さすが部長さん」

 僕は表に出ると、伊織と目があう。

「民也、赤いモビルスーツだったね」

「伊織も説教たれるのか?」

「言いたいこと、あるね。赤いのが格好いい」

「結論でていない?」

「詳しく、話したいのよ」

 ケラケラと笑う伊織。

「わかったよ。語って」

「まず――」

 それから伊織の話を聞くこととなった。

「要するに格好いいってこと?」

「そう。かっこいいのです!」

 テンション爆上がりの伊織。

 ふふんと鼻を鳴らす。

 僕は疲れた身体を癒やすためにミーティアユニットを触る。

 これ、コンテストには間に合わないよな……。

 でもかっこいいと思うのです。


「お兄ちゃん」

「え!? なんで令美がここに!?」

「ふふ。高校生コンテストだけど、観覧は自由なんだから」

 令美は黒髪を揺らし、ニコニコと笑みを浮かべている。

「令美、来たんだね」

 伊織がそう言い、握手をする二人。

「令美ちゃん、久しぶり」

 天野さんもニコッと応じる。

「お久しぶりです。あ。このストライク……あれ? お兄ちゃんのバックパックが……」

「ええと。事故が遭って……」

 言いづらそうにする天野さん。

「僕のファーストガンダムと天野さんのエールストライカーが破損してね。それで合作にしたんだ」

「……ふーん。実質、合体じゃん……。変態」

 なんでか否定されたのだけど?

 僕は苦笑いを浮かべる。

 変態かどうかは分からないけど、僕たちの提案は最高のパフォーマンスを見せた……と思う。

 まだ審査員が来ていないけどね。

 そろそろ十八時。お開きかな。

 コンテストは三日ある。

 きっと三日目には審査員も来るだろう。

「やっぱり、お兄ちゃんはすごいなー」

「え。なんで?」

「うん。ピンチなのにそれを糧にできるのだもの」

「いや、この提案は天野さんなんだ。最高のガンダムにするために……」

「そっか。ありがと。天野先輩」

「たいしたことはしていないよ」

「それでも、です」

 令美は少し強ばった顔で応じる。

「うち、不器用だからお兄ちゃんのようにはなれないよ」

 悲しげに目を伏せる令美。

「令美……もっとプラモデル作ってみるか?」

「いいの? 迷惑じゃない?」

「可愛い妹のためだ。頑張るよ」

 とはいえ、令美は僕を恋愛対象としてみている。

 それは辞めさせなくちゃいけない。

 だからあえて近づく。

 ただの家族だと分からせるために。

「妹、か……。わかった。お兄ちゃん、ありがとう」

「何かあったの?」

 天野さんが小首を傾げてこちらを見やる。

「いや……」

 とてもじゃないが話せない。

 実妹の令美が僕にガチ恋しているなんて。

 浮いた話もなかったのは、僕に惚れていたから。

 というのは自意識過剰か。

「何もないよ」

「何も、ね……」

 歯切れの悪い声を上げる令美。

「そっか。令美ちゃん。何かあったら相談にのるからね」

「ありがとう。お姉ちゃん」

「お、お姉ちゃんかー」

 苦笑いを浮かべる天野さん。

「こら。お前のお姉ちゃんではないだろ?」

「ふふ。そうだね」

 令美は不適な笑みを浮かべる。

「今は、ね」

 令美は小さくつけたす、が……、聞き取れなかった。

「あー。でもわたし、妹いるの。お姉ちゃんっぽいかも!」

「……どちらかと言えば、妹な気も」

 僕が言うと伊織も首肯する。

「そうね。あなたは姉って感じがしないよ」

「そうかな……」

 困ったように笑む天野さん。

「ははは。でも、意外としっかりしているの、わたし」

「本当にしっかり者は自分から言わないわね」

「伊織先輩、きびし~」

 令美がそう言うと、鞄から何やら取り出す。

「差し入れです!」

 そう言ってお菓子を差し出す令美。

「これから夕食だよ?」

「あ。そっか……」

 僕の発言に目を潤ませる令美。

「大丈夫。明日まで賞味期限あるみたいだから、明日の糧にするの」

 そう言って丁寧にお菓子を受け取る天野さん。

 やっぱりお姉さん気質なのかもしれない。

 細やかな気遣いができている。

 令美は少し笑顔を取り戻し、手を伸ばす。

「うけとってください」

「うん。ありがと」

 天野さんは嬉しそうに目を細める。


 夕食時になり、僕たちは顧問の先生のもと、外食を許された。

 近くのファミレスで食事を摂る。

 なんとも青春っぽい一面だ、と感慨深く感じた。

 僕、伊織、令美、天野さん、部長、そして先生の六名だ。

 四人がけと二人がけの二つを支配したことに、ちょっとした罪悪感を覚える。

「さて。何を食べようかな? ビールはマストよね」

 先生がそれでいいのか?

 全員が豆鉄砲でも受けたような顔になる。

 そりゃそうか。

 先生のプライベートなんて知らないし。

 でも、生徒の前で飲めるメンタルもすごいと思う。

 もうこれ以上の事故やトラブルはなさそうだからいいけど。

 さて。僕は何を頼もうかな。

 視線をメニューに落とす。

 様々な料理が載っている。

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