第27話 HG 1/144 水中型ガンダム
コネクトプラスのパフォーマンスが終わり、コンテスト『BB01プラモコンテストin東京』が始まる。
各々が好きなプラモデルを見て回る。
「あんたらも行きな」
部長に背中を押され僕と伊織は他のブースに向かう。
「あ! 水中型ガンダムだ!」
僕はその青い機体に目を輝かせる。
透明な素材で水中戦を再現している。
「これ誰が作ったの?」
「おれっす」
「綺麗にできているよ! まるで本当に戦っているみたい」
「あざっす」
「こっちのゲルググもいいね」
僕はそのブースの高校生と会話を楽しむ。
自分以外にもこんなにプラモデルが好きな人がいて嬉しい。
「こっちのボーイング11も見てよ」
「ほう。飛行機雲は綿で再現しているんだね」
僕はおとがいに手をあてて考える。
どうしてプラモデルの話はできるのだろう。
世間話はできないのに。
「おう。きたな」
後ろから無骨な声が聞こえる。
「レイジ……」
「貴様のプラモデル、見せてもらう」
「その前にレイジのを見せてよ」
「ふっ。かまわないぜ」
自信たっぷりな様子でニヤニヤしている。
ブースとブースの間を通り、周囲を見渡す。
どのプラモデルも完成度が高い。
中にはフルスクラッチで挑む人もいる。
ジ・
モーターを組み込んでガザCを完全変形させている人もいる。
「テメーは自分だけを見ていたようだな」
「そうだね」
悔しさを感じていた。
「ここには才能の原石ばかりだ。テメーもそう思うだろ?」
「認めるよ。悪いけど、かっこいいプラモデルばかりだ」
「だろ? さて到着だ」
全身が震えた。
こんなプラモデルがあっていいのか?
百式。
金色のボディが映える機体。
シンプルながらもかっこいいモビルスーツだ。
ちなみにガンダムオタク、通称ガノタにはロボットと言ってはいけない。暗黙のルールでモビルスーツあるいはモビルアーマーと呼ぶのを強制されている。
「どうだ。俺様の百二式は!」
輝くように光っている百式。いや百二式。
「最高だよなぁ~!」
このガンプラには勝てない。
そう認識すると、僕は目をそらす。
「ククク。負けを認めたっていいんだぜ?」
肩に置かれた手を払う。
違う。
違うよね。
「僕はまだ負けていない」
「は! 言うね!」
レイジは余裕の笑みを浮かべる。
勝ってやる。
天野さんのためにも。
レイジには渡したくない。
「僕のは最強のモビルスーツだ!」
「なら見せてもらおうか、貴様のガンダムを!」
ごくりと生唾を呑み込む。
「みせよう、ガンダムを!」
僕のブースへ戻ってくる。
アクセルストライカーを乗せたガンダム。
僕の考えたストライカーパック。
スピードを意識した加速度的に動く近接戦闘型タイプ。世界最速を目指したガンプラ。
展開式のスーパーバーニアと主翼、それに姿勢制御を目的とした噴射口。
シンプルにまとめあげたバックパック。
「世界最速のガンダム」
「……は! これが? か?」
声が震えている。
負けてはいない。
他のブースを訪れる人も息を飲む。
原作に忠実だった僕がワガママを言ってできたガンダム。ガンプラ。
「本体よりもバックパックが目立っているじゃねーか!」
「!!」
レイジの言う通りかもしれない。
「本体ならこっちの方が優れているぜ?」
レイジが指差したのは天野さんが作ったガンプラ。
「オリジナルカラーのストライクガンダム」
「そうさ! この紫色は俺様の中にはない!」
それは僕も思った。
「そう言うあんたにはこのシャアザクは、どう映っているわけ?」
黙って聞いていた部長が立ち上がり、赤いモビルスーツを手にする。
「あ、いや、ええ……」
部長の威圧感にうろたえるレイジ。
「このファーストの感じ」
「感じ」
「最高だね!」
「だね!」
どこからか現れた双子が部長のプラモデルを褒め始めた。
どうやらファーストガンダム信者らしい。
部長と一緒に盛り上がっている。
これには苦い顔を浮かべるレイジ。
「あれがなければ後発のガンダムはなかったわけよぉ!」
部長が調子に乗っている気がする。
同士を見つけて喜ぶ気持ちは分かるけどね。
センスと紙吹雪を広げている部長。
なんだ。これ。
「こら。騒がない」
引き留める先生。
先生がしゃべるのは珍しいな。
普段はあまり介入してこないのに。
「はーい」
部長は大人しくなる。
双子は量産型ズゴックとギャンを手にしていた。
「こいつらもかっこいいよな!」
「な!」
「わからないでもない」
部長がメガネを光らせる。
「いや全然反省していないやん」
こめかみに指をあてる。
「……貴様の実力はその程度だったか」
あきれ返るように呟くレイジ。
「それは……」
まだ迷いがあるのを見抜かれている。
僕はまだ足りないらしい。
レイジと双子が散り散りになり、宮司のブースへ向かう。
苛立ちを覚えた僕は作りかけのミーティアストライカーを触る。
やっぱりプラモデルはいい。
安心するし、思考がクリアになる。
……。
天野さんはどうしているかな。嫌われたかな。
いかん。
思考がネガティブになっている。
頭から余計な思考を落とすために震う。
バックパックが目立っている。
言われるまで気がつかなかった。
自分オリジナルのプラモデルの完成を目指して頑張ってきた。
それだけだった。
だから全体像を考えていなかった。
失敗した。
賭けの対象に天野さんがいるというのに。
なんて情けない話だ。
僕にできることは、ミーティアストライカーを作るだけ。
なに。コンテストは三日ある。
ギリギリ間に合うかもしれない。
……でも、これもバックパックだ。
やはりそちらが目立ってしまうのか。
会場では塗装もできないし。
頭を抱えているところに部長のツインテールが揺れる。
「どうした? 万代」
「いや、だって……」
悔しい。
こんなにもつらい気持ちになるなんて思いもしなかった。
プラモデルでダメ出しを食らうなんて。
好きだけじゃダメなのかもしれない。
あるいは僕のオリジナリティなんて、誰も求めていないのかもしれない。
原作に忠実ならそれでいい。
「万代」
「僕、悔しいです。レイジには負けたくない」
「なら、それを完成させたらどうだ? まだチャンスはある。そのために持ってきたのだろう?」
「それはそうですが……」
完成する保証などどこにもない。
でもやるしかないんだ。
僕が完成させる。
このガンプラを。
僕の手で。
もうそれしかないから。
藁にもすがる思いでデザインナイフを手にする。
僕はまだ止まれない。
「そえそう。天野ちゃんのライブ、まだあるみたいだよ」
「それでこっちにはこないのですね」
寂しい思いを抱えたまま、周囲に頭をくべらせる。
伊織が知らない男子と話している。
とても仲が良さそうだ。
ズキッと胸の奥が痛む。
違う。
僕は決めたんだ。
なのに、なんでこんな気持ちになるだよ。
この感情はなにさ。
なんでこうも揺れてしまうのさ。
僕はもう嫌だ。
何もかも投げ出して一人になりたい。
考えるのも、感じるのも嫌だ。
僕はまた一人になろうとしている。
モデラーとしての僕しかいないのかもしれない。
でも僕は。
僕は変わりたい。
このままじゃ嫌なんだ。
だって僕はどうしようもなくガンダムのファンだから。
ガノタだから。
変わりたい。
変えてみせるよ。
自分の運命に抗いながらも、成長していくのがガンダムのパイロットなのだから。
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