第16話 HG 1/144 ストライクフリーダムガンダム
みんなでガンダムの造形を深めたあと、僕は急いで自室にこもった。
「僕のガンプラ、絶対認めさせるぞ」
気合いの入った手で設計図からプラ板を切り出す。
あのレイジを、そして自分を越える。
フルスクラッチでガンダムを作ってやる。
フルスクラッチとは、フル(すべて)スクラッチ(削る)――つまり全部をプラ板やプラ棒で作るプラモデルのことである。
作る。
「僕は……僕の考えた最強のガンプラをこの手で造る!」
「すごい集中力だね」
「アニメに触発されたって奴だね」
「でもあれは……」
そう。
ガンダムらしからぬガンプラ。
僕のすべてを注ぎ込んで造る、新しいガンダムのありかた。
コンテストに向けて造り、僕が切り開く。
全く新しいガンダム。
僕の考えるアナザーストーリー。
ストライクフリーダムガンダムが来た。
その手に握られたビームサーベルが振り下ろされる。
その手を抑える僕のガンダム。
「なに!?」
「ふぁあああ!」
僕のガンダムはストライクフリーダムガンダムの腰にあるビームサーベルを引き抜き、メガ粒子の剣が煌めく。
そのビームサーベルでストライクフリーダムガンダムを切り裂く。
「ユニバーサル仕様なんだよ!」
浮かんだ。
ガンダムの世界が。
あの殺伐とした世界が。
僕のガンダムは敵のビームサーベルを奪い取り、斬りつける場面だった。
じゃあ武装は最低限でいいな。
ビームライフルとビームサーベルだけでいい。
手足から金色の粒子を散らす。
その粒子がビーム攪乱膜となる。
粒子を放出する機構、そしてF91のような質量を持った残像。
いける。
これなら次世代のガンダムになりえる。
「すごい。正確にプラ板を切っている」
「最終調整はあとだろうね」
「迷いがないから早いよ」
天野さん、伊織、令美が見ていることにも気がつかずにプラ板に集中する。
「ふぅ……」
あとは接着剤が乾くのを待つだけ。
接着剤は一週間で乾くタイプのを使っているから、すぐには作業できないな。
そうだ。前に作っていたバックパックを少しいじるか。
「万代くん」
「ん。ああ、天野さんか」
「すごい集中力してたね」
「うん。僕の考えたガンプラが出来上がるよ」
「民也、少し見せてよ」
「うちも見たい!」
熟考し、僕は見せることにした。
「未完成で不恰好だけど……」
いれていたガンプラを手にする。
「これだよ」
「これが民也の専用機」
「ちょっとこっぱずかしいね」
僕は頬を掻いてまたしまう。
「かつこいいよ、お兄ちゃん!」
「そうかな?」
「うん。すごいよ、万代くん」
女性陣はなにやら盛り上がっている。
僕にはわからない世界があるのかもしれない。
このガンプラが映像になることはありえないけど、なって欲しいとも思う。
名前もなきガンダム。
いつかこれが評価される日を夢見て。
「民也はどう思う?」
「え?」
「聞いていなかったの?」
伊織の次に尋ねてくる天野さん。
「うん。ごめん」
「お兄ちゃんはどのガンダムが好き?」
「え――全部だけど?」
みんなの顔が固まる。
「さすが民也だね」
苦笑する伊織。
「さて明日は月曜日だよ」
「うん。そろそろおいとまするよ」
「ええ」
天野さんと伊織は荷物をまとめて立ち去る。
「そうだ、万代くん」
「なに?」
「プラモデル、ウェザリングがしたい」
「そっか。うん、協力するよ」
僕は手を振って帰りを見送る。
「ありがと」
「またね」
ふたりを見送り、令美を見る。
眠そうにあくびをしている。
「うち、寝る」
徹夜したものな。
「ゆっくりお休み」
僕はにかっと笑い、リビングに向かう。
コーヒーを飲み、目を冷まさせる。
よし。作るか。
自室でサンドロックをさわる。
手足の伸張。腰回りの変更。真鍮線による各部関節の強化。
やりたいことは山積みだ。
ちらりと前々から作っていたバックパックを見る。
「どうやって接続するかな……」
思いつく候補は三つ。
最初から一ピンにする。
ガンダムの軸を二ピンにする。
接着剤でつける。
「うーん」
どれもあまりやりたくはない。
自走できるように改良したのだ。
好ましい選択がどれかわからない。
じーっと悩む。
この時間も楽しいけどね。
「さて、コンテストに間に合うかな?」
削ったあとのプラスチックのゴミをまとめる。
プラチューブでも見るか。
僕はプラモデルの組み立て動画を検索し、見ていく。
「あ。エールストライカーってそういうシステムなのか」
プラモデルで悩んでいた箇所の動画を見つけ僕は理解する。
「そうだ。二ピンから一ピンに変更するパーツを作ればいいんだ」
これでストライクフリーダムガンダムにもストライクガンダムにも応用が効く。
さらに言えばストライクフリーダムガンダムに装着しようとしていたバックパックも改良がはかどる。
大口径メガ粒子砲を三つと大型のシールド二枚。分離・合体することでファイターになるバックパック。
これもいい。
すぐに方眼紙に書き写す。
「作る。作りたい。僕だけのガンプラ」
そうだ作るんだ。誰でもない、僕が僕のために!
チクタク。
アナログ時計の音が聞こえてくる。
母の趣味で古い、アンティークな家具がある。
そのせいか少し異世界感がある。
コルクボードにある伊織との写真を見る。
「伊織、僕はまだまだだよ」
そっと写真を撫でる。言葉通り大切なものを扱うように。
あの約束はまだ果たしていない。
僕の初恋の相手。
「やるぞ!」
伊織が僕を避けるようになってから三年。
最近になりようやく前みたいに話せるようになった。
天野さんがそのきっかけをくれた気がする。
伊織の中の何かを解放したのだろう。
僕はそう思っている。
それに伊織は何か勘違いしている気がする。
一人だったら、ここまで上達していない。
一人だったら、改善点もわからない。
一人だったら、…………。
よそう。
伊織は伊織だ。
彼女なりの気持ちがある。
僕の意見を押し付けるのは違う。
僕の感情は僕のもの。
それはエゴだよ。
アムロならそう言うだろうね。
僕は一人苦笑し、プラモデルにポーズをとらせる。
「作中の格好にはできないかな」
アニメのポーズはなかなかに難しい。
たぶん
「うん。今は止めて置こう」
対艦刀はこのままでいいや。
それよりも今はコンテストのガンプラを仕上げることに集中するか。
色の調合をしよう。
ライトグレー。
濃い目のシアン。
白とシアンを混ぜた色。
よし。調合はできた。
あとは塗るか。
エアブラシをセットし、塗装ブースをつけ、窓を開ける。
マスクとゴム手袋をつけて挑む。
塗装を終えるとゴム手袋を脱ぎ、額の汗を拭う。
僕はほっと一息つく。
「あ! お昼だ」
慌てて台所に向かう。
令美がお腹を空かして待っている。
手を丁寧に洗い、調理開始。
パスタを茹で、ソースを暖めるだけの簡単な作業。
できあがった料理を食卓に並べ、令美を呼びにいく。
ドアの前で呼んでも返事がない。
寝ているのかな?
軽くドアを押すと動く。
ちゃんと閉まっていなかったようだ。
「令美?」
そこには気迫に溢れた令美の姿があった。
漫画に集中し一呼吸するのでさえ、苦しくなるような緊迫感がある。
締め切りはまだ先のはず。
「あ! お兄ちゃん」
「どうしたんだ? そんなに集中して」
「ええっと。アニメ見て、お兄ちゃんの姿見ていたらいても立ってもいられなくなって」
頬の汗を手で拭う令美。
僕は持っていたハンカチでその愛らしい頬をふく。
「インクついたよ」
「えへへ。ありがとう」
「食事にしよ」
「そうだね」
二人でリビングに向かう。
僕に触発されて漫画書いていたのか。
努力を認められたようで少し嬉しい。
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