第15話 MG 1/100 ガンダムデュナメス
「それでお兄ちゃん、どうすればプラモデル上手くなるかな?」
「うん、それは僕も考えていた」
あのレイジが来てからずっとプレッシャーを感じた。生まれて初めての経験だった。
僕よりも上手くて、僕の想像を越えたのは。
だから、僕ももっと上手くなりたい。もっとガンダムの世界を広めたい。
知りたい。分かりたい。
「僕が考えた最強のアイディアは……」
「アイディアは……?」
ごくりと喉を鳴らす令美。
「アニメを見ることだ!」
「で……。なんで、この二人がいるのよ」
令美がこめかみに青筋を立てている。
「令美ちゃん、よろしくね!」
天野さんが嬉しそうに手を合わせている。
「久しぶりだね。令美」
伊織はポケットに手を突っ込んで切れ長の目を向けてくる。
天野さんは白のブラウスに、赤いプリッツスカート。清楚そうな出で立ちだ
伊織は、黒のシャツに薄手の水色のパーカーを羽織っている。デニムのホットパンツをはき、生足を出している。
「むー!」
膨れている令美をおいて僕はさっそくパソコンを大画面テレビにつなぐ。
「何が見たい?」
ガンダムと言っても様々なシリーズがある。
宇宙世紀、アナザーセンチュリー、ビルドシリーズ。
映画に、OVAもある。
「はい!」
「そこのアイドルくん!」
「まだ見たことのないSEEDが見たいです!」
「覚悟はあるか?」
「あります!」
「よろしい、ならば戦争だ!」
「待って。ユニコーン一択だね。高貴な感じがする」
「それを言うなら逆シャアだよ」
伊織や令美まで意見を出してきた。
意見の対立が相手を区別し、争いを生む。争いの種を自ら演出する。ガンダムの説く戦争の縮図と平和への渇望がそこにはある。
「なら僕のオススメ、
「「「「えー!!」」」
「00は一見、機械ぽくないデザインと、独特の世界観から、嫌煙されがち。でも生きる意味を探す主人公たちは素敵だよ」
見れば分かる、そう付け加えてバンダイチャンネルをクリックする。
ガンダム00の本編が始まる。
その圧倒的な世界観に、一同静まり返る。
気がつけば1stが終わる。
「続きは?」
「ロックオン……」
「なるほどね。どうりで親父が熱中するわけだ」
様々に語られる感想。
そのどれもがおそらくは正しいのだ。
「じゃあ、後編行くよ!」
「待って。お腹空いた」
「お風呂にも入りたいかも」
「少し休まない? 民也」
「そっ……か。うん、そうしよう」
映像の時間は570分。約9時間半もかかっているのだそりゃそうなるか。
今は朝の5時。
僕はまだ元気だけど。
オタクはアドレナリンが沸騰しているからね。仕方ないね。
「さて、朝食でも用意するか」
僕は台所に立つ。
「万代くん、料理できるの?」
「意外かな?」
「ううん。すごくいいと思う」
天野さんは隣にくる。
「わたしも手伝うの」
「そう、じゃあ飛びっきり美味しいの頼む」
「ハードル高いな~」
半笑いで応じる天野さん。
そこに悪意はない。
僕は鮭を焼き始める。
「和風か……。じゃあ煮物にするね!」
天野さんは僕のメニューを見て手際よく料理を始める。
「そんな時間ある? 10分でつくれる」
「頼もしいね」
サクサクと大根、ニンジンを一口大に切っていく。
その隣で卵焼きを作る僕。
「手つき、慣れているね」
「朝飯前だね」
「朝飯をつくっているけどね」
「それは気にしない」
リズムよく出来上がっていく料理。
「そう言えばガンダム00はどう?」
「ん。生きる活力があると思う」
「そうだね。二期もいいよ」
「そうなんだ、楽しみ」
にへらと笑う天野さん。
良かった。
楽しんでくれているみたい。
朝食を作り終えると食卓に並べる。
「わぁぁあ! おいしそう!」
「さすが民也だね」
「わ・た・し・も! 作ったけどね!」
天野さんが珍しく自己主張をする。
「一緒に台所に立ったのか?」
「まるで夫婦……」
伊織と令美は愕然とした様子で目を見開く。
「そんなことより朝食にしよ」
僕はそう言い、箸を手にする。
「いただきます」
みんなで食べ始める。
「ふふーん、もらい」
「あー、うちの煮物!」
「お・い・し・い!」
「ありがとう。わたしの力作なの」
「おえ!」
「伊織ちゃん!?」
「冗談よ」
ああ。なんだかとても幸せな気分だ。
天野さん、伊織、令美が仲良く食卓を囲むなんて。
これほど嬉しいことはない。
「どうしたの? 万代くん」
「いや楽しいなって思って。みんな仲良しだし」
みんな黙り微笑む。
「民也はそれでいいよ」
「お兄ちゃん……」
「万代くん」
それぞれが何かを感じとり、小さく吐く。
その後も話は盛り上がった。
食事を終えると、僕は皿洗いを始める。
隣には風呂上がりの伊織がいる。
ちなみに今、天野さんはお風呂に入っている。
若干湿り気のある髪に、上気した頬。血色の良くなった肌。
「昔は一緒に入っていたっけ」
「ずいぶん前の話だね。忘れよう」
「忘れられないよ。キミだってそうじゃないか」
お皿を拭く手が止まる。
「そうかもね」
「あの頃もこうして一緒に皿洗いしたね」
「そうそう。お茶碗が割れたときはヒヤリとしたよ」
昔話に花を咲かせていると、まるで時間がさかのぼったみたいな気持ちになった。
「昔は一緒にガンプラ作ったっけ」
「そうだね。半分ずつ色塗ったね」
「あー。緑と赤でおかしな色だった」
ザクⅠだった。
「そうだったね」
くすくすと笑う伊織。
「あー、楽しかったな」
「今は楽しくない?」
「そんなことないけど……。昔は特別だった」
どういう意味だろう。
特別なのは伊織の記憶? それとも関係性? あるいは……。
「民也は、さ」
片目を隠す髪が揺れる。
「好きな人いないのかい?」
「そうだね……
「声優さんじゃん」
「うん、よくわからないんだ」
「なら、良かった」
少し安堵したように微笑む伊織。
僕は本当は恋がなんなのか、知っているかもしれない。
でも今の関係性が壊れるのが怖くて誤魔化した。
みんなで食事できる幸せをもう一度噛みしめたい。そんなワガママだった。
「お兄ちゃん来て!」
「どうしたの? 令美」
僕はエプロンで手を拭き駆け寄る。
「テレビ見て!」
「テレビ? 旧世代の遺物?」
テレビなんて飾りです。偉い人にはそれがわからんのです。
今はパソコンがあるから、テレビをいらない人も増えているらしい。
「あ!」
そこには見知った顔がある。
整った顔立ち。長い髪をひと括りにし、汗を流している。
アイドル天野さんがそこにはいた。
「本当にアイドルなのね……」
「そうだね」
歌とダンスで精一杯頑張っている。
アイドルにハマる人の気持ちはわからないけど、応援したい心はある。
手の動きがプラモデルを組み立てているようで面白い。
アップテンポな曲調に合わせて歌を踊りをする。
「かなわないな……」
「ホントすごいね。うち勝てるかな?」
「勝てる?」
「あ、いや……何でもない」
ふるふると小さく首をふる令美。
テレビは天野さんがプラモデルを作っている姿を写す。
プラモデルに興味を持ったきっかけや、プラモデルにかける思いなど、様々な質問を受ける。
映像はプラモデルの完成を見せている。
「以上、プラモドールでした」
普段と違う天野さんを見たからか、少し胸がドキドキしている。
可愛かった。
アイドルだから当然なのかもしれないけど。
そう言えば石田さんも写っていたな。
もう会わないだろうけど。
「うちの次の漫画……これにする」
「うん。頑張れ」
「ちゃんと教えてね?」
令美は上目遣いでこちらにねだる。
「わかった。大丈夫だよ」
僕は深くうなづく。
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