第14話 HG 1/144 ガンダム端白星
「くくく。俺様のRG ゴッドガンダムは最高の出来だ! 貴様には分かるまい」
こいつ粗雑な印象だが優れたモデラーであることは間違いない。
その証拠にゴッドガンダムは光り輝いているように見えた。
確かに最高の出来かもしれない。
でも。
「違う。違うよ、ガンプラは人の心を表すもの。生きざまがのるんだ」
「はっ! ならその生きざまとやら、見せてもらおう」
「……分かった」
「民也!」
伊織は怒ったように叫ぶ。
「大丈夫だよ。僕はもう二度と間違わないから」
「万代くん」
「天野さん」
「がんばって!」
「うん、頑張る」
うなづく。
「お! どうする気だ?」
「僕はガンプラを作るよ。それだけ」
「は? ばかじゃね? 俺様には勝てねーんだよ!」
「万代くんは勝つよ」
「そうね。民也は強い」
「次期部長だしな」
「ほざくな!」
僕は目の前でHG クスィガンダムを組み始める。
手元で組上がっていくガンプラ。
丁寧かつ慎重に。
素早く大胆に。
それはもう芸術である。
シールの一枚まで指先に集中している。
神経系を1
一時間もしないうちにクスィガンダムが出来上がる。
「
「……分かった? 民也の実力」
「はっ! この程度かよ、がっかりだぜ! 俺様を待たせておいて、吠える」
「あんた!」
「伊織」
「でも!」
「伊織!!」
ビクッと震える伊織。
「大丈夫だから」
「う、うん」
「レイジくんはもう帰って。もうすぐ下校のチャイムが鳴る」
「はっ! 尻尾巻いて逃げるのかよ? ダセ~な!」
「そう思われても仕方ない。でもキミが戦うべき相手は僕じゃない」
湖畔の静まり返ったような感情で、僕は告げる。
「今日は下校だよ」
僕はみんなに言う。
首肯するみんな。
ビシッとクスィガンダムに白化がみえる。
この僕が精細さを欠いていた。
あいつの熱に当てられたか。
いやプレッシャーに負けたのだ。
これが敗北の味。
いや、違う。
負けたのはレイジのせいじゃない。
答えはもう出ている。
「精進しないとだね」
「民也はすごいじゃない」
伊織は優しく言う。
「ありがとう」
でも伊織も分かっていないんだな。
僕と天野さん、そして伊織は帰り道をとぼとぼ歩く。
「あー! ムカつく!」
「伊織ちゃん?」
「なんであんな奴がいるかな!?」
おっと過激な発言だね。
「伊織ちゃん。落ち着いて」
「でも民也のこと、馬鹿にしたのよ! あんなに綺麗な動きなのに」
「でも今日の万代くん、少し調子悪かったみたいだし」
「天野ちゃんは何も分かっていないね。あいつは難癖つけて馬鹿にしたいだけなんだ!」
伊織は苛立った様子で地面に転がっていた小石を蹴りあげる。
小石は低く飛び排水溝に落ちていく。
「民也は馬鹿にされたままでいいのかい?」
「よくないね。だから、帰ったらガンプラ作るよ」
「いつも通りじゃん」
伊織が怪訝な顔をする。
「そうとも言う」
苦いものでも食べたかのような伊織。
「ふふ」
「なに?」
「ごめん。伊織ちゃんと万代くんの話が面白くて」
「私は本気で言っているのだけど」
「だから、ごめんって」
興が冷めたのか、伊織はため息とともに大人しくなる。
「僕も今度のコンテストにはまけないよ。あんなに凄いモデラーがいるんだ。学ばせていただこう」
「民也はすごいのに」
「うん。そのいきだよ、万代くん」
伊織は冷めているようで、実は熱いからね。
一方で天野さんはしっかり本質を見極める力がある。
僕のことをよくわかっている。
伊織は僕がプロになってから、少し遠退いた気がする。それは悲しくて、寂しくて、つらかった。
でも最近また歩みよってくる。
それが堪らなく嬉しい。
ガンプラの腕前も昔よりあがっている。
静かに闘志を燃やすようなガンプラは、まさに彼女の本質でもあるかのようだ。
ガンプラには個性が出る。
それを体現しているのが伊織だ。
そして思う。
彼女こそがトップモデラーにふさわしい、と。
「民也、私の顔を凝視してどうしたのさ?」
「いや、伊織は伊織だなって思ったんだ」
「そう?」
「僕の知っている伊織が一番だ」
一番のモデラーだ。
「へ?」
伊織は硬直し、こちらをマジマジと見つめる。
「そう思ってくれていたのかい?」
伊織がトップモデラーだという事実は変わらないだろう。
「そうだね。ずっとそう思っていたよ」
顔がトマトのように真っ赤になる伊織。
「わたしは?」
天野さんが慌てた様子で尋ねてくる。
「初心者ながら頑張っているなー、って。だから今度は筋彫りを覚えようか」
「やった! ん? ええっと?」
天野さんが混乱したように仰ぎ見る。
「民也、もしかしてガンプラの話かい?」
「そりゃ?」
それ意外になにかある?
「た、民也の馬鹿――!!」
伊織は逃走した。
「あははは。万代くんってプラモデル以外のこと考えているの?」
「失礼な。ちゃんと考えているから。大学では、材料工学専攻って決めているし」
「うーん。なんかずれているなー」
苦笑で返す天野さん。
「じゃあ、わたしこっちだから」
天野さんは名残惜しそうに呟く。
「また明日、学校で」
「うん」
「「バイバイ」」
分かれると僕は家路を急ぐ。
今日は帰ったらプラモデルを作るんだ。
家に着くと、思いついたアイディアを方眼紙に書き残す。
出来上がった設計図を見て微笑む。
「僕の、僕だけのガンプラ~」
「お兄ちゃん、帰っているかな?」
「あ、うん。帰っているよ」
令美はドア越しに尋ねてくる。
「じゃあ、ガンプラ教えて」
そう言って入ってくる。
「分かった。でも無理はしないこと」
「いつまでも子ども扱いしないでよ」
中学生は子どもじゃないのか。
僕がガンプラに熱中している間に社会の常識が変わったのかもしれない。
ウッソだって13歳だものな。
「分かった。大人扱いする」
僕は椅子から立ち上がり令美に迫る。
「え! ちょ、ちょっと!」
壁に背を預ける令美。
僕はそのまま壁に手をつき、妹の髪についたトーンをとる。
「漫画うまく描けているんだね」
そう言って壁から離れる僕。
ゴミ箱にトーンを捨てて、椅子に座る。
「ま、まぎわらしいよ! お兄ちゃんのばか~!」
「え! なんで!?」
しばらく泣かれた。
泣き止んだ頃、令美はプラモデルを取り出す。
「おお、渋いの選んだね」
「そうなの?」
こてっと疑問符を浮かべる妹。
「ガンダム鉄血のオルフェンズのサイドストーリーだからね。マイナーだよ」
でも、
「いいチョイスだ」
「作ろう?」
「そうだね。おいで」
手招きをすると子犬のように駆け寄ってくる。
尻尾があれば左右に振っていただろう。
かわいいが妹である。
僕の膝に座ると、令美はプラモデルの箱を開ける。
「ご開帳!!!」
開けるとクリアパーツが目立つ。
クリアパーツは材料費が高い。
しかも通常パーツと違う雰囲気を出す。
初心者には合わないこともある。
やはり劇中のが欲しくなる人が多いのだ。
それでも喜ぶのは特別感、お得感があるからだ。
「じゃあ、ランナーから切ってみようか?」
「うん」
膝に乗った令美は丁寧にランナーからパーツを切り出す。
怪我しないといいのだけど。
令美は不器用だから。
「いたっ!」
「え! どうしたの!?」
僕は慌てて令美の指を見る。
ニッパーで指を切ったらしい。
血が滲んでいる。
「どどどうしよう!?」
パニックになった僕は、令美の指をくわえる。
「え! お兄ちゃん!?」
「唾液には殺菌効果があるって!」
「それ嘘だよ。お兄ちゃん」
「ご、ごめん!」
「絆創膏だね」
「あ。うん、でも」
僕はティッシュを一枚とり指に巻いて、マスキングテープでさらに巻く。
「すごい」
「僕が怪我したときの対処法」
昔、プラモデルを作るときによく怪我していたからね。
「ありがとう、お兄ちゃん。大切にするね」
「いやすぐに絆創膏探そう?」
「これでいい。これがいいの。うちにとっては一番効く絆創膏だよ!」
可愛くウインクする令美。
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