第13話 RG 1/144 ゴッドガンダム

 僕は素組みのガンプラを用意する。

 陸戦型ガンダム。

 色々といわくがあるが、僕は気にしていない。

 面白いならそれでいいと思っている。

「ご開帳!!」

 開けると白とグレーのランナーが目立つ。

 ちらちら見てくる石田さん。

 僕は袋から開けると、即座にパーツをランナーから切り離す。

 パチンパチン。

「え! あいつなにやっているんだよ!?」

「万代くんなら大丈夫大丈夫」

「いや番号分からなくなるだろ」

「大丈夫。ちゃんと覚えているから」

 僕はそう返すとリズミカルにパーツを切り離す。

 まるで音楽を奏でるように。

 切り離したパーツを説明書通り組み立てていく。

 パチパチ。

 その音が部室に響く。

 できた。

完成ギブバース!」

「はやっ!? まだ終わっていないんだよ」

 石田さんは目を丸くする。

 EGガンダムはまだ出来上がっていないらしい。

「……暇だからウエザリングするか」

「ウエザリング?」

 天野さんが疑問符を浮かべ、指をおとがいに当てる。

「汚しのことだよ。実際に戦っているイメージをして、土の汚れとか、焦げた跡とかをプラモデルにつけていくんだ」

「へぇ~」

「ばっかみたい。プラモデルが汚れるわけないじゃない」

 石田さんは嘲笑う。

「まあ、見てなって。民也の技術は日本一だから」

 伊織の声が遠退く。

 塗料をかき混ぜ、薄め液を加える。

 ガンプラをパーツごとにわける。

 塗装ブースのファンを回転させ、エアブラシに塗料をセットする。

 マスクと手袋、それにエプロンをしてエアブラシをふく。

 シュー。

 空気が振動し細かい粒子がプラモデルに付着していく。

「色が、変わっていく……!」

 そりゃそうだ。塗っているからな。

「すごい。鮮やか」

「そうかな?」

 エアブラシの使い方が神レベルなのを、万代は知らない。

 吹き付ける粒子が色を与えていく。

 リアルに染め上げていく。

 陸戦型ガンダムのウエザリング。

 万代専用機。

「僕の、僕だけのガンプラ」

「これが、こいつの才能……」

 感嘆した顔を見せる石田さん。

「そう。民也の生み出す力。まるで最初から存在していたような……」

「伊織ちゃん?」

 畏怖の気配をかんじた伊織をまじまじと見つめる天野さん。

「な、なんでもないよ」

 そう言ってイモータルジャスティスに向き合う。

「これでフィニッシュだ!」

 僕はエアブラシの向きを変える。

 うまくできた。

 これで……、

完成ギブバース!!」

 たじろぐ石田さん。

「まあ、まだ乾燥していないけどね」

 苦笑を返す。

「色も変わるね。もっと落ち着いた色になる」

「そこまで計算して……!」

 驚く玲美。

「重ね塗りも必要だね」

 できればサフも吹きたいけど。

 手軽な塗装のお手本ということで、いいか。

「それで天野さんのガンプラは?」

「うん。家で塗っているの」

「ほう……!」

「万代くんには見せられないかも」

 焦りの色をみせる天野さん。

「……有花ちゃんの方がすごいんだから~!!」

 なぜか怒りだし、部室をとびだす石田さん。

「万代」

「僕が悪いの!?」

 糾弾した部長に食い下がる。

「あとちょっとで部員にできただろうに」

「部員にはならないですよ」

「その心は?」

「勘です」

「ニュータイプのようなことを言う」

「人間そんな便利にできていませんよ」

 笑いあう部長と僕。

「なに分かりあったような顔をしているのよ」

 伊織が間に入り、唇を尖らせる。

「ごめん」

「部長さん、本当に原理主義?」

「宇宙世紀ならまだ……」

 半笑いする部長。

「宇宙世紀ね……。そんな風になることはないだろうね」

「将来、どうなるかなんて誰にもわからない。いいんじゃない。フィクションはフィクションで」

 僕は持論を表明する。

「万代くんの言う通りなの。気にしてもしょうがない。わたしたち、今を生きているから」

「ふーん。格好いいこと言うじゃん」

「天野さんの考えは大事だと僕は思うよ」

 うんうんとうなづく。

「分かるけど」

「さあ、プラモデル作ろう」

 僕たちはプラモデル部なのだから。


 完成したプラモデルの写真を撮ると、SNSにアップする。

「ガンプラは足踏み出すといいよ。反対側の足もこう」

 僕は天野さんに写真のコツを教える。

「そうそう、いい感じ! あとビームサーベルを持たせると……」

「じゃあ、手はこっち?」

 ガンプラの手を動かす天野さん。

「いいね。もう少し傾けようか」

「こう?」

 ガンダムのV字アンテナが折れないよう、注意しながら傾けていく。

「うん。すごくいいね。次はどのポーズにする?」

「サンライズ立ち!」

「天野さん知っているね」

 サンライズ立ちはサンライズがよくとるポーズの一つ。足をひろげ。両手で剣をかまえ、切っ先に焦点を当てるような姿である。

 簡単に言えば、格好いいポーズである。

 天野さんは丁寧な手つきでポーズをとる。

「できたの!」

「うん、写真とろう」

「うん!」

 パシャとスマホで撮影する。

「若干暗い……」

「明かりを足そう」

 僕は部室にあるライトを持ち出す。

 ライトがガンプラに光を与える。

「いいね。格好いい」

「でしょ! ガンプラって格好いいんだ~!」

「民也は純粋だね」

「そう?」

 純粋な人ってどういう人を指すのだろう?

 ガンダムの主人公は総じて純粋なことが多いけど。

「これどう?」

 天野さんがこちらを向いて笑顔華やいでいる。

 手元のガンプラを見るとなかなか格好いいポーズをしている。

「おお! いいね」

「でしょ!」

「あんたたち、私がいるの分かっている?」

 伊織が眉根をつり上げている。

「わわ! ごめん!」

「分かっていないんだね」

 ショックを受けている伊織。

「伊織、ちょっぴり遠慮していない?」

 僕の発言に目を見開く。

「そ、そんなこと……」

「前はもっと積極的だったじゃない」

「……」

 無言になる伊織。

「わたしのせいだったりするの?」

 悲しげな笑みで伊織を心配する天野さん。

「ち、違う。私個人の問題」

 伊織は陰りを見せ、うつむく。


 ドン。

 ドンドン!

「邪魔するぜ!」

「誰だ?」

 突然ドアを開け大声をあげる男子高校生。

 誰何の声で返すが、その双眸はぎろりと光って見える。

「万代民也は貴様か?」

 僕を睨む。

「俺様はレイジだ。今度のプラモデルコンテスト、俺様が勝たせてもらうぜ!」

 周囲に目をくべらせるレイジ。

「んん?」

 レイジは天野さんの顔を見ると固まる。

「美しい……、まるでスーパーフミナみたいだ……」

「え」

 天野さんドン引きしているけど?

「あんた、突然現れて何様のつもり?」

 伊織が敵意を向ける。

「俺様は俺様だぁ!!」

 ふんぞり返るレイジ。

「で。お嬢さん、お名前は?」

「わたし?」

「もちろん」

「わたしは天野有花」

「ユウカか。いい名前だ」

 クツクツと笑うレイジ。

「挙式はいつあげる?」

「きょしき?」

「くくく。そこまで知らないか!」

「いや、単純についていけてないだけじゃね?」

 部長が呆れたようにため息を吐く。

「がははは! 今日はいい日だ。最大の敵、そして最愛の女に出会えたのだ!!」

「なに……?」

 低く唸る僕。

「くくく。俺様と戦う気になったか? 万代」

「戦う?」

「そうだ! ガンプラ同士のとんでもねー戦争って奴だ!」

「違う! ガンプラは戦争じゃない!」

 真っ直ぐにレイジを睨む。

「ガンプラは遊びだ。最高に格好いい……ただそれだけだ!」

「はっ! なにを寝ぼけたことを言う」

 レイジは石田さんが作ったEGガンダムと僕の作った陸戦型ガンダムを手にする。

「分かるだろう? 違いが!」

 確かに今日初めて作ったものと十年作り続けてきたものは違う。違うけど。

「そして、これが俺様のガンプラだぁ!!」

 懐から取り出したガンプラは、

「RG ゴッドガンダム!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る