第12話 HG 1/144 イモータルジャスティスガンダム
放課後になり、部活に向かう僕。
……まあ、同じクラスで同じ部活、さらには友達なら一緒に行くよね。
「万代くん、おそーい!」
気が重いんだよね。
マネージャーや石田さんから関わるなって言われているから。
「そういう天野さんはいいの。僕と関わって」
「気にしないよ。だってわたしのことは自分で決めるから」
「ホントすごい子だよね」
伊織も同じことを思ったらしい。
「まったくだね。悩んでいたことがバカらしい」
「あんたもだよ。民也」
「僕はたいしたことないよ」
プラモデル部に向かって歩きだす。
「プラモデルのコンテスト《BB01プラモコンテストin東京》はどうするのさ?」
「うん、考えているものがある」
「さすが民也」
褒められたのだろうか。
部室につくと部長が先にいた。
「いやー、面白いことになっているね! 万代」
「何が、ですか?」
僕はうろんげな表情を浮かべる。
「噂。天野さんと付き合っているって?」
「やめてください。違いますよ」
なぜか膨れる天野さん。
「万代ならそう言う気はしていたけどね」
「さて、今日は何を作るんだい?」
「それは」
コンコンとノックが鳴る。
「どうぞ」
「失礼しやーす」
「石田さん」
「芽依ちゃん、どうしたの?」
「二人が同じ部活らしいじゃん」
口の端を歪めて、石田さんは口を開く。
「壊しにきたんだ」
「壊しに……って!」
天野さんは悲しそうな顔をする。
「それはいただけないね」
「部長」
「こっちは部員を守る義務があるからな」
部長が石田さんに詰め寄る。
「なにをする気なのかわからないけど、守るよ」
「ちっ。さ、天野ちゃん、帰ろ」
「できないよ」
「なに言っているんだよ。男はみんなケダモノだよ。何考えているかわかったものじゃない」
「でも万代くんは!!」
「あんたは何もわかっていないんだから!」
「万代くんと離れるくらいなら、分からなくていい!」
金切り声を上げる天野さん。
嫌な空気が、沈黙とともに漂い始める。
「あの」
僕が口を開くと空気が変わる。
「せっかくだから見学していかない?」
「………………は?」
石田ちゃんの間抜けな声が響く。
「いいね。プラモデル部の真骨頂を教えよう」
「ええ。私もいいと思う」
部長と伊織もニヤリと口の端をつり上げる。
自然と視線は天野さんに向く。
「いいの。それで納得するなら」
天野さんも頷いてみせる。
「そうときまれば美プラを作るよ」
「部長は美プラと初期ガン以外に興味ないんですか?」
僕は渋面を作ると、ガンプラを探す。
今日はイモータルジャスティスにするか。
「イモジャ!」
伊織が顔色を変える。
そう言えば赤い
特にシャア専用機が。
「かっこいいのさ~」
ワクワクした様子で顔を近づけてくる。
「近い……」
「わっ! すまん」
「作る?」
「私はそんなつもりじゃ……」
「いいんだよ。伊織もプラモデル部じゃない」
「分かった。作るよ」
「僕は百式の手入れでもするかな」
持ってきた箱を開ける。
伊織がイモータルジャスティスを作り始める。その横で、百式を眺める僕。
「それ完成品だろ、なにしてんだよ」
石田ちゃんが苛立ちを見せる。
「し! 精神統一だよ。万代くんはああしてプラモデルの完成を想像しているの」
天野さんの尊敬の眼差しを感じる。
赤もなしだ。漫画で似たのがある。
となると、
「ミリタリーだ。迷彩色」
「え! どうやって塗装するの!?」
「まあ、見てて」
迷彩柄はとても難しい。
多色構成だし、柄のパターンも複雑だ。
でも実際の戦争ではよく使われる手でもある。
リアルとフィクションの間にあるガンダムだ。
似合うに決まっている。
パチン。
イモータルジャスティスのパーツが切り出されていく。
それぞれのパーツが組重なっていく。
カチッ。カチッ。
小気味良い音が張りつめた空気の中、木霊する。
「なによ。黙っているだけだろ?」
「芽依ちゃん、わからないの?」
「え?」
「ゾーン状態に入っているの」
ゾーン状態。それは物事に集中し、周りが見えなくなる瞬間のこと。
「踊っているとき、あるでしょ?」
「それはお客さんがいるから……」
「プラモデルは越えるの。簡単に」
石田さんの顔色が変わる。
「みんな、プラモデルが好きなのかよ」
「それが答えなの」
石田さんの握りこぶしが震える。
伊織の職人のような手つきに痺れる。
それを、軽く越えている万代の芸術的な動き。
パーツセパレーターで百式を解体、表面処理をする。
「ふう。あとは乾燥だ」
部長は美プラを、伊織はイモータルジャスティスを作っている。
「それで、ご感想は?」
僕は石田さんに尋ねる。
「みんな本気なのは分かった。壊す気は失せたな」
言い終えると天野さんの手を取る石田さん。
「でも彼女は……返してもらう」
「君たちのアイドルはプラモデルのアンバサダーなんだろう? なんの問題がある?」
僕は問い詰める。
「あたしは、プラモデルが好きな訳じゃない」
プラモデルアイドルをやっているから、プラモデルを好きと誤認していた。
「あたしは単にちやほやされたいだけ」
本当はプラモデルが好きじゃない、と小さく呟く。
「一緒に作ろう。僕たちの
「キモい言い方すんな! 死ね!」
「うん。選択肢間違えた」
バタバタと部室を出ていく石田さん。
「大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。泣いて……まあ、うん」
僕が天野さんに尋ねると力強い答えが返ってきた。
言い方はミスったね。
でもプラモデルは僕にとって子どもみたいなんだもの。
「何かあった?」
イモータルジャスティスの制作から顔を上げた伊織がそう言う。
きっと騒いでいたから集中が途切れたのだろう。
「大丈夫らしい」
「でも天野ちゃん、追いかけなくていいのかい?」
「すぐもどってくるの」
自信たっぷりに答える天野さん。
まあ彼女が一番の仲良しだし、間違いはないだろう。
「芽依ちゃんは警戒心が強いだけで、実際はいい子なの」
にこやかに顔を上げる。
「そっか」
僕はうなづく。
「イモータルジャスティスはどう?」
「やっぱり最近のガンプラってすごいね。塗装なしでこれだもの」
シールはあるものの、細かい箇所まで色分けされている。
これなら素組みだけでも充分、飾れる。
「やっぱ赤はいいわ~」
赤をこよなく愛する。それが伊織だ。
「かっこいいよね」
父さんとの約束を思い出す。
――格好いいガンプラを作ろう。
僕はまだまだだよ。
「できた!
美プラを作りあげた部長が大きく伸びをする。
「おめでとう」
「顔パーツで悩んだけどね。あとは写真~」
プラモデルを作り、完成品をSNSに投稿して反応を見る。それが部活動としての実績につながる。
最近は、こうした仕組みが流行っているらしい。
がちゃとドアが開く。
石田さんが戻ってきた。
天野さんの予想通りだ。
「芽依ちゃんも一緒に作ろうよ!」
天野さんがにこっと笑う。
「だな。作るよ」
ぎこちない笑みを浮かべる石田さん。
まあ天野さんもまだ初心者だけどね。
EGガンダムを手に取る天野さんは、石田さんに手渡す。
「これ簡単だから、一緒に作ろう?」
「分かったぜ」
石田さんはニッパーを手にすると緊張した顔で蓋を開ける。
「ご開帳!!」
「細かいな」
「大丈夫。HGに比べたら……」
陰りを見せる天野さん。
「HG?」
「ハイグレードの略称だよ。他にもエントリーグレード、マスターグレード、リアルグレードとかがあるよ!」
「あー、そんなのあったわ」
プラモデルアイドルだから聞いたことがあるらしい。
さて、僕も乾燥待ちのあいだに素組みするか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます