第11話 HG 1/144 ディランザ
令美と一緒に夜を楽しんだ僕は、学校に向かって歩いていた。
なんだかひそひそと言っている人たちの視線を感じる。
自分の席に座ると、デコとボコが話しかけてくる。
「お前、天野ちゃんと付き合っているのか?」「のか?」
その言葉に教室が静まり返る。
「え! 付き合っていないよ」
「だよな。お前はプラモデル馬鹿だものな」「だものな」
なんで付き合っていると思われたんだ?
「変なこと聞いて悪かった」「悪かった」
「それはいいけど」
いつの間にか教室にいた天野さんと目が合う。
――それよりも天野とは今後一切関わらないように。
マネージャーの言葉が脳裏をよぎる。
顔を背ける。
学園アイドルでもあって、プラモドールプロジェクトのアイドルでもある彼女。
関わりかたに気をつけなければならないかもしれない。
「バカ民也」
「どうしたんだ。伊織」
「噂になっている。天野ちゃんと一緒に歩いていたって」
「あー」
なるほど。昨日のおでかけが見られていたのか。
天野さん可愛いものな。
男子からの人気も高い。
そりゃ話題になるわけだ。
「万代くん、わたしたちの関係……言ってもいいよね?」
その言葉に、しっとりとした声にどぎまぎしてしまう。
「うん。師弟関係だね」
そう言いきるとなぜか、天野さんは膨れっ面になる。
「師弟……?」
天野さんの友達な
「そうだよ。僕は天野さんのプラモデルをみているんだ。センスいいよ」
「へー。やるじゃん、
「ふふ。でも万代くんには負けるな~」
「大丈夫。そのうちうまくなれるよ」
誇張でも励ましでもない。
事実を告げた。
でも彼女たちはそうは受け止めなかったらしい。
「ありがと」「優しいんだ」
実際には、僕の技術が停滞している。そんな僕はいつか才能の塊である天野さんの技術に追い越される。
怖いと感じている。
僕にも何かできないか、と焦っている。
僕は何をすればいい?
「さ、行くよ」
「うん」
予鈴が鳴り、石田さんと天野さんは立ち去っていく。
授業に集中しなきゃ。
お昼休みに入り、僕は一人でお弁当を広げる。
と、隣に天野さんと伊織がやってくる。
「どうしたの? 二人とも」
「いいじゃない、友達だし」
「そうそう」
僕はいいけど、二人ともみんなの視線を集めているの、気がついていないのかな。
僕はその視線だけで恐怖を感じるよ。
「わぁあ! 万代くんのお弁当おいしそう!」
「妹の令美が作っているんだ」
「令美ちゃんは元気してる?」
伊織がなんとなしに聞いてくる。
昨日の疑いを忘れた訳じゃない。
夜まで一緒にプラモデルを作っていたとは言えない。
「うん、元気だよ」
「妹ちゃんかわいい?」
天野さんがこてっと首を傾げる。
「うんかわいいね、民也写真」
「今開いた」
伊織の言いたいことが分かりすぐさま、スマホの写真をひらく。
その様子を見ていた天野さんは不機嫌な顔になる。
「これだよ」
「わぁあ! かわいい~!」
「胸……」
伊織は自分の胸に手を当てて恨めしそうな顔をする。
いや、貧乳だって価値があるんだよ。
「僕はディランザも好きだな」
あまり胸のない機体を選ぶ。
「? どうしたの? 急に」
心配そうに覗きこんでくる天野さん。
「民也はこうしたときあるよね。何が言いたいのかわからないことが」
わからないならそれでもいいや。
「なんだか伊織ちゃんと万代くん、分かりあっているみたい……」
「そうかな?」
「まあ、付き合い長いからね」
「いいなー」
遠くを見つめる瞳は、何を物語るのか、僕にはわからなかった。
「おい!」「おい」
デコとボコだ。
「天野ちゃんと何イチャイチャしてんだよ!」「だよ」
「別にイチャイチャなんてしていないよ」
「そうは見えなかったぜ」「ぜ」
ギロッと睨めつけてくるデコとボコ。
「わたしが楽しくお話していたのにジャマするの?」
鋭い眼光を放つ天野さん。
「すいやせんでした!」「でした」
引き下がるデコとボコを見ていると、他のクラスメイトもひそひそ話をしている。
よく見ると何か言いたげな人ばかり。
陰キャな僕としては気が気ではないのだけど。
「あら、有花ちゃんじゃない?」
天野さんの友達である石田さんが話しかけてきた。
「芽依ちゃん! どうしたの? クラス違うじゃない」
「噂。うちのクラスまで来ているんだから」
困ったように眉根をよせる石田さん。
「噂くらい、いいじゃない」
気にした様子もなく食事を進める天野さん。
石田さんは天野さんとタイプの違う感じだ。
浅黒い肌、ショートヘアでスポーツ選手といった言葉が似合う。端正な顔立ちだ。
実際、天野さんが知と言うなら、石田さんは武と言える。
二人そろえば最強と言わしめるほどだ。
「なんだよ。うちもまぜろって」
石田さんは四つ目の机と椅子を持ってくる。
伊織が露骨に嫌な顔をする。
「石田さん? 私らもいるのだけど」
あと若干、キャラがかぶっている。
伊織の上位互換みたいなキャラだもの。
ただし伊織にはプラモデルがある。
「うちだってみんなと話したいんだって」
「そんな乱暴な……」
「で、キミが噂の万代くん?」
「そうだけど……」
警戒心を強める。
心のアラートが鳴り響く。
彼女は危険な香りがする。
「ふーん」
興味を失なったように購買で売っているカツサンドにかじりつく。
「ゆうか、今日も超えてのレッスンだかんね」
「うん。分かっているよ」
「二人はどういう関係?」
言葉や内容で想像つくけど。
「ん? 知りたいか~? 糞雑魚くん」
僕の名前は変わったらしい。
結婚もしていないのに。
「芽依ちゃん、意地悪云わないの」
「へーい」
「芽依ちゃんはわたしと同じガルドアイドルなの」
やっぱり。
「有名人なんだね」
伊織が苦笑を浮かべる。
「嫌な言い方だな」
「こっちライバルが増えたからね」
「ふーん」
ジト目を僕に向けてくる。
ライバルってプラモデルの、だよね。
それ以外ないか。
「なんでこんな奴」
「うぐっ!?」
僕を明らかに見下した発言だ。
間違っていないから、たちが悪い。
「芽依ちゃん!」
とがめるように声を上げる天野さん。
「悪かったって」
悪そびれる様子もなく、惣菜パンにかじりつく。
その食べ方は豪快だった。
「……石田さん、って男の子みたいだね」
「……っ!?」
「万代くん!」
ショックで固まる石田さん。
あれ、言い過ぎた?
「ご、ごめん」
「ふーん? 度胸はあるんだな!」
声が震えていますよ?
顔を近づけてくる石田さん。
「天野ちゃんにこれ以上関わるな」
おう。また言われたぞ。
でも僕からというよりは、天野さんから関わってくるんだよなー。
「何を言ったの? 芽依ちゃん」
「いいや、別に」
ニタニタと笑みを浮かべて、食事に戻る石田さん。
「なんだか万代くんの動きが止まったよ!?」
「民也、大丈夫?」
僕の額の汗をふく伊織。
「下の名前呼び?」
「私と民也は幼馴染みだからね」
「ふーん?」
「なにさ?」
「別に。趣味が悪いな」
悪い? 誰が?
「何寝ぼけたこと言ってんだ?」
「万代くん?」
空気を吐き出すと同時、頭に血がのぼる。
「伊織のこと、何も知らないだろ?」
「うっざ」
「お前だろ、それは……!」
僕は熱にうなされたようにつかみかかる。
「なんだ。この騒ぎは!」
先生が入ってくる。
胸ぐらをつかんだ手を離す。
「本当に貧乳なんだな」
「……くっ!」
「薄っぺらいやつ」
人としても、な。
「万代、きみが怒るなんてな」
先生は曖昧な笑みで応じる。
「正直、心配だった。いつも一人だったからな」
「先生……」
「大丈夫だ。辛くなったら、先生に相談しなさい」
「はい」
「何かあったら言うんだぞ」
そう言われすぐに解放される。
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