第7話 RG 1/144 Ζガンダム

 午前十一時十分前。

 ステンドグラス前。

 約束した時間より少し早いけど、プラモデルの改造案を考えておくかな。

 改造するイメージを膨らませる。

 3mmプラ板で腰の伸張。手足も整えて……。エッジをつけないとな。

「万代くん? 待たせた?」

「わっ! ごめん!」

 驚いた。いつの間にか隣にいた天野さん。

 白くておしゃれなワンピースに、長い髪は編み込まれている。

「綺麗だ……」

「え!」

「あ、いや。なんでもない」

 僕は自分の言葉がキモいことに気がつく。

 天野さんは相談したくて来たのだ。

 迷惑でしかない。

「その……いこっ?」

「そうだね」

 天野さん優しいな。

 僕の気持ち悪い発言を気にした様子もなく、エスコートしてくれる。

 ……うん。男がエスコートすべきことだよね。

 でも行き先は分からないのだもの。

「それにしても……それハサウェイのシャツなの?」

「うんそうだよ」

 僕が着ているシャツは黒の生地に、赤色で閃光のハサウェイに登場しているマークがある。マークは背中にだけある。表からだとただの黒の生地に見えるかもしれない。

 なんで天野さんはわかったんだろ?

「わたしに似合う服ってなんだろう?」

「うん?」

「今からいろんな洋服屋に行くの」

 ほう?

「わたしに似合う服を見つけてね!」

 ほう!

「難しいかも」

「わたしの顔だと似合わない?」

「いや! 違う違う!! 僕のセンスが怪しいってこと!」

 クスクスと笑いを浮かべる天野さん。

「冗談だよ。からかいがあるの~♪」

「~~! あ・ま・の・さん!」

「わわっ! ごめんって!!」

 僕は天野さんの髪をくしゃくしゃに撫でつけてやった。

「せっかく整えたのに!」

「ははは。泣くがいい!」

「もう、誰のために――」

「どういう意味?」

「なんでもない!」

 そっぽを向く天野さん。

 訳が分からん。

 そうこうしている内に目的の場所についたらしい。

「ここ?」

「うん。はいろ?」

 高級志向の衣服店に見えるけど。

 僕はいつも◯ニクロで済ませているからな~。

 天野さん、ブルジョアだ。

 アイドルだもの。お金あるのかも。

 僕もプロのモデラーだけど。

「これどう?」

 フリフリがついたピンクの上に、黒のスカートを見せてくる。

 いわゆる地雷系だ。

「可愛いと思うけど」

「じゃあ更衣室で着てみる!」

 え! 着るんだ。

 ワクワクしている自分がいる。

 そうだ。ガンダムの形式番号を数えよう。

 RX-78-2、MSZ-006、MSZ-010……

「万代くん、見て?」

 しっとりとした声音でカーテンを開ける天野さん。

「うわぉ!?」

 思った以上に似合う地雷系の衣服。

「それ。どういう反応なの?」

 微笑みを浮かべる天野さん。

「うん、いいと思う」

 あっ。この流れだとガンダムSEED Destinyの第46話のキラとラクスみたいになる。

 どうでもいい訳じゃないけど、実際に似合っているんだよね。

 どうしたらいいの? アスラン!!

「次はこれにしよっ!」

 ああ。まずい。

 このままだとキラになっちゃう!?

「どう?」

 恥じらいながらもカーテンを開ける天野さん。

 アリスの衣装に身を包んだ姿は悩ましい。

「~~っ!?」

「どう? どう!?」

「ずるい!」

 目を丸くするアイドル。

「ふふ。いい顔」

 またからかわれた!

 不機嫌な顔をすると、慌てふためく。

「わわっ! ごめん! お詫びにとっておきの着るから」

「もう。もう! もう!!」

 そんなこと言われたら断れないじゃない!

 シャーッとカーテンが引かれる。

 落ち着け。

 エアプラモデルを作るんだ。

 まずはRGΖガンダムを……。

「どう?」

 カーテンが開くとそこにはサキュバスコスをした天野さんがいた。

 露出度が高く目のやり場に困る。

「なんて格好しているのさ!」

「や、やっぱり変だったの! ごめん!」

「別に変ではないけど」

 小さく呟く。

 似合っているけど、妖艶すぎた。

 もっと簡単に言うならエッチすぎた。

 自分でも顔が赤いのが分かる。

 ワンピース姿に戻った天野さんがカーテンを開く。

「もっと普通のがいい?」

 普通じゃない自覚あったんだ。

「そうだね。ロングスカートとかどうかな?」

「うん。着てみる」

 いくつか衣服を持って試着室に入る。

「いいね」

「似合っているよ」

「可愛い」

 天野さんは満足した顔で買い物を済ませる。

「次は万代くんの番だね!」

「んん?」

「もっとおしゃれしようよ!」

「いいよ。僕は」

「わたしが買うから、一度だけ! ね?」

「そう言われても」

 むっと頬膨らませる天野さん。

「わたしがコーディネートしたいの! 自分色に染めたいの!!」

 うーん。困ったな。

 でもおしゃれしてみたいかも。

「分かった」

 そこまで言われたら断れないよ。

「じゃあ。万代くんのファッションショーなの!」

 なんだか嫌な予感がする。

 次のお店に向かっている途中、お土産屋が見えてくる。

「ずんだシェイク気になる?」

 僕は天野さんに尋ねる。

「うん。でもいいの」

「買おう。オススメは三階の喜久水庵だよ」

 コンビニ脇にあるのはお土産用だからね。

 僕は天野さんを喜久水庵きくすいあんに連れて行くとずんだシェイクを二つ頼む。

 キラキラした笑顔でずんだシェイクを受けとる天野さん。

「さ、飲もう?」

 喜久水庵には小さいけど椅子がある。

 ゆっくりしたい人にはちょうどよい。

 座って飲む。

 枝豆のさわやかな香りと甘さが口の中に広がる。冷たいのがまたいい。

「美味しい……」

 天野さんも喜んでくれたみたい。

 良かった。

「さ。行こっか?」

 飲み終えた頃合いを見て言う。

「うん」

 天野さんと僕は衣服店に向かって歩きだす。

「なにを着てもらおうかな~♪」

 ノリノリな天野さんがうらやましい。

 僕は衣服でこんなに喜べないから。

 どこか冷めた目で見ているのかもしれない。

 天野さんが大きくドクロマークの入った衣服を選ぶ。

「天野さん?」

 冷や汗が滲む。

「うん? あ。これも良さそう」

 森羅万象とでかでかと書かれたシャツを手にする。

 いつ着るのさ!

「ええっと……」

「着てみて」

 おおい。これも着るのかい?

「はい」

 僕はいくつか手にし、試着室に入る。

 まさかこんなチャラチャラした感じの服を着ることになるとは……。

 着終わるとカーテンを開ける。

「やっぱり変だよ」

「そんなことない。いけるいける!」

 鼻血を吹き出しながら言う天野さん。

「なんでや!?」

「ごめんなさい。興奮しちゃって」

「興奮する要素は一個もなかったけどね」

 苦笑し今度は別の服に着替える。

 これも陽キャが着るものじゃないのかな?

 陰キャな僕には似合わないよ。

 ダメージジーンズと変な模様の入ったシャツ。

 天野さんに見せる。

「きゃーかわいい――!」

 女子の可愛いは信じちゃダメだよね。

 だってキモカワイイとかの言葉があるくらいだし。

 気持ち悪いキャラも可愛いって言うんだもの。わからないって!

 もしかしてからかわれている?

「次のも着てみてよ!」

「う、うん」

 あ。これ……。


「万代民也、いっきまーす!」

「すごい! やっぱり最後はガンダムだよね!」

 連邦軍の衣服に身を包んだ僕。

 青い上着に白いパンツ。

 これならあと三十年は戦える。

「これはいいものだ」

「まるでマ・クベみたい」

 笑いを浮かべながら、そっと近づいてくる天野さん。

 とんと胸に人差し指を当てて、

「カッコいいよ、万代くん」

 触れ合える距離にいる。

 そのことにドキドキしている自分がいる。

「うん。これ買お?」

「うん」

 とはいえガンダムタイプの衣装とは!

 あれ? 

 さっきのドクロも?

「買い物もすんだし、そろそろお昼にしよ?」

「いいと思う。どこがいい?」

「うーん」

 しばし悩む天野さん。

「ならパスタにする?」

 仙台駅前にはけっこう美味しいパスタ屋さんがある。

 そこに行こう。

「いいよ!」

 天野さんも首肯する。

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