第6話 MG 1/100 ガンダムサンドロックEW

 今日は何を作ろうかな……。

 ルンルン気分で部室に向かう。

 隣に天野さんと伊織がやってくる。

「ねぇねぇ。今日は何を作るの?」

「うーん。どうしようかな……」

 どのガンプラを作るかで、気分も変わる。

 それもまた面白いのだ。

 最近はランナーの数が少ない、比較的に楽なガンプラを選んできた。

「ランナーが多いのに挑戦してみようかな?」

 僕は何げなくMGサンドロックを手に取る。

「さて、ご開帳~!」

 サンドロックの箱を開けると、そこには大量のランナーが見える。

「うわぁあ。すごい量」

 びっくりしている天野さんも可愛いな。

「これどのくらいかかるの?」

「うん? 五時間くらいかな」

「すごいね! わたしなら十年はかかりそう」

「そんなことないって」

 僕は天野さんの天然ぷりに笑顔がこぼれる。

「お二人さん、イチャイチャしない」

 伊織が呆れているのか、怒っているのか判別できない顔でデコビンしてくる。

「私もいるんだって忘れない」

「ご、ごめんなさい」

 僕はペコペコと頭を下げる。

「まあ、ずっと傍観していた私もだけど……」

「ううん。伊織ちゃんは悪くないよ!」

 天野さんがそう言うと伊織を抱き寄せる。

「今度からは、ちゃんと言って欲しいの」

「はい」

 あの伊織が懐いている、だと……?

「今、失礼なこと考えたよね?」

 伊織はギロとこちらを睨んでくる。

「何でもないよ」

「ふーん」

 訝しげな眼光を放つ伊織。

「それよりも! アイドルって何をしているんだ?」

「それ私も気になる」

「そんなたいしたこと、してないの~」

 照れるように顔を隠す天野さん。

 なんか可愛い。

「ほとんどダンスと歌のレッスンなの!」

 そう言って立ち上がる天野さん。

 口ずさみながら身体を動かす。

 その姿は美麗で、芸術的だった。

「こんなの万代くんもプラモデルに比べたら……」

「……そうね」

「違う」

 二人ともなんで気がつかないんだ。

「違うよ」

「民也?」

 こんな簡単なことに。

「比べるものじゃない! 僕たちは好きだからやるんだ!」

「ご、ごめんなさい」

 なぜか謝る天野さん。

 好きでアイドルをやっているのに。

「天野ちゃんは……何でもない」

 伊織が何かを言いかけて止める。

 悶々とした様子で膨れっ面を浮かべる天野さん。

 すごい複雑な顔だ。

 よくわからん。

 僕が頭にクエスチョンマークを漂わせていると、伊織は苦笑する。

「さあさあ、プラモデルを作るんだよね」

 伊織は努めて明るい声で言う。

「そうだね。僕のサンドロックを作るよ」

 さっそくランナーを袋から取り出し、パーツを二度切りしていく。

「え! 説明書は見ないの!?」

 驚いた顔をしている天野さん。

「見るよ。まずはパーツごとにするのが一番早いからね」

「どれがA-1か分からないの」

「大丈夫、全部頭に入っているから」

「あいかわらずチートね。民也のモデラー技術は」

「そう?」

 言っている間にランナーからパーツを切り離すことができた。

 説明書を開き、一つ一つ組み立てていく。

 パチンパチンと心地よい音が鳴り響く。

「すごい。本当に覚えているの」

「覚えているんだよ」

 伊織は畏怖と羨望の眼差しを向けてくる。

「瞬間記憶力だからね。テストの成績もいいし」

「瞬間記憶力?」

「絶対に忘れないってこと。民也は最強なんだから」

「……知っている」

 天野さんは感慨深そうにうなづく。

 そんな彼女たちの言葉は頭に入ってこない。

 ただ目の前のプラモデルに集中していた。

 パチン。

 また一つパーツがはまり、胴体が出来上がる。

「すごい。まだ二十分しか経っていないの」

「プロモデラーだからね。その芸術性も高く評価されているよ」

 次は頭、その次は足。そして腰、バックパック。最後に武器を作る。

「たった二時間で組み立てちゃったの」

 天野さんは目を丸くしている。

「これが万代民也君の実力よ。私たちがあまりにも無力」

 そうなんだから。民也君の才能は周囲の人間を傷つける。どんなに努力しても追い付かない。だから伊織はモデラーになるのを諦めた。

 大好きで大好きなガンプラが苦痛になった。まるで自分のガンプラが間違っているように思えた。

 それほどまでに彼の才能は人を傷つける。

 完成したサンドロックを見て、天野さんはパアッと明るくなる。

「すごい!!」

「うん。少しプロポーションが甘いね」

 僕はそう呟き、どう改造するか悩む。

「もうそろそろ下校の時間だよ」

 伊織はそう言い、パパッと片付けを始める。

「続きは家でやるよ」

 僕は天野さんにそう告げると、片付ける。

 ランナーやゴミを仕分けて箱にいれる。

「天野ちゃんも早く」

 伊織が促すと天野さんも急いで支度する。

「明日から三連休だから、特に綺麗にしなさい」

 いつの間にかいた部長が仕切る。

 天野さんも伊織もホウキやちり取りを手にする。

「明日も来るのに……」

 僕はそう呟く。

「だからです。万代が一番汚すんだから」

「ぅう」

 確かにそうなんだけど。

 言い返せないよ。

「部長厳しいの~」

 ほんわかした調子で言う天野さん。

「ほら民也も手伝う」

「はい」

 テンション低く応じる僕。

 片付けが終わると、僕たちは帰り道を歩く。

「そっか、民也は明日も来るんだ」

 小さく呟く伊織。

「暇だったら来るよ」

「じゃあ私こっちだから」

 伊織は小さく手を振り自分の家を目指す。

 僕と天野さんはゆっくりと歩きだす。

 春の陽気な空気が僕たちを包み込む。

「明日から三連休なのー」

「そうだね」

 張りつめた空気が漂い始める。

 なんで?

「……あの!」

「なに?」

「明日、暇?」

「暇だけど……?」

「あの! 明日、で」

「? うん」

「遊ばない?」

「いいよ」

「だよね。むり、……え!」

「無理じゃないよ」

「あ、うん。ありがとうなの!」

 嬉しそうにするので微笑ましい気持ちになる。

「そうなの! れ、れんら……」

「うん? あー。連絡先交換しよっか?」

 なんだろう。すごくドキドキする。

 まるで悪いことをしているみたい。

「うん!」

 弾けるような笑顔を見せる天野さん。

 やっぱりアイドルだ。

 詳しくないけど。

 さて帰ったらプラモデルの続きをしよう。

「じゃあね!」

 大きく手を振って家路を急ぐ天野さん。

「よっしゃー!」

 うん? 天野さんがずいぶんと嬉しそうだね。

 まさかね……。


 僕は歩いて帰るとすぐさまサンドロックを作業スペースに置く。

「ん。あ、そろそろこっちも組まなきゃ」

 そう言って手にするフルスクラッチのバックパックだ。

 ガンダムの世界観であったら……という妄想スクラッチだけどいいよね?

 原作至上主義の部長なら否定するだろうな。

 こんな想像力だけで作ったの。でも『ガンプラは自由だ!』という言葉を思い出す。

 僕はその言葉を聞いてから独自解釈のガンプラをスクラッチしている。

 スマホが鳴る。

 ラインらしい。

 そっか。天野さんか。

『こんばんは! 明日は11時にステンドグラス前でいいですか?』

『いいよ』

 簡素すぎたかな?

『ありがとうございます♡』

 ……なにを話せばいいのだろう?

『伊織も呼ぶ?』

 あ。既読ついた。

 ……うん。反応がない。

「ご飯できたよー!」

「はーい!」

 まああとでもいいか。

 僕はスマホを置いてリビングに向かう。

 今日はしょうが焼きかー。

「何か良いことあった?」

 母にニマニマしている。

「……なんもないよ」

「そう?」

 まだニマニマしている。

「友達が増えたんだ」

「あら、良かったじゃない。彼女によろしく」

「女の子って言ったっけ?」

「あら! 本当に女の子なのね!」

「~~!」

 はめられた。

 食事が終わりスマホを見ると返信があった。

『相談したいこともあるからふたりでお願いします』(頭を下げるスタンプ)

 あー。それが一番の目的なのかな。

『わかった』

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