第2話 RG 1/144 ウイングガンダム
パソコンの動画サイト<プラチューブ>にて、
主にプラモデルの最新情報やレビュー、最新技術の紹介などがされていた。
なるほど。天野さんが言っていたことはこれか!
可愛い顔をしているし、アイドルになっても不思議じゃないけどね。
学園アイドルになっているもの。
でもいきなりアイドルだものな。僕の想像を遙かに凌駕しているよ。
僕の手の届かないところに行ってしまったもの。
まあ、それは前からか。
苦笑を浮かべつつ、僕は通学路をトボトボと歩いていく。
「どうしたんだい?
ポンッと背中を叩かれる。
ちょっと痛い。
「あ。
ボーイッシュな彼女は伊織
同じ病院、同じマンション、同じ幼稚園から高校まで。
ずっと一緒だった幼馴染みで、同じプラモを愛する王子様タイプだ。
僕とは違くて、女の子にモテモテなのだ。
それが若干羨ましい。
「まあ、伊織には分からない話だよ」
「む。なにそれ。感じ悪いよ。民也」
「ごめん。でも僕は羨ましいのかもしれない。みんな自分のエリアで輝いているんだもの」
「民也にもあるじゃない」
クスクスと笑みを浮かべる伊織。
「なに?」
聴くのは怖い気もするけど、今の僕は肯定感に飢えている。
獣と化していたのだ。
「プラモデル」
「え」
「だって民也くらいだよ。そんなにプラモデルに熱心なの」
「……バカにしている?」
「そんな民也にも輝ける舞台があるよ」
伊織は鞄からパンフレットをとりだす。
【BB01プラモコンテストin東京】と記載されているプラモのコンテストらしい。
「で、でも……」
「民也はなんでそんなに弱気なんだい?」
確かに僕は弱気だ。
弱いし、陰キャだし、根暗だし。
実際に弱いし……。
「だって僕には……」
「プラモデルは、違うだろ? 民也はプラモデルを愛しているじゃないか」
「そうだけど」
「君の実力は世界でもトップクラスだ。それを誇れない民也なんて」
「あ。ガンダムのセリフ」
クスクスと笑う伊織。
「やっぱり好きなんじゃないか」
僅かに頬の筋肉が緩むのを感じた。
「そうだね。やってみるよ。僕」
「うん。それでいいんだ。民也は」
笑みを浮かべる伊織が不思議と満足そうだった。
教室にはいると、天野さんがこちらを見て目を輝かせる。
同じクラスだものね。いるよね。
弱気な僕は周囲に気づかれないように、歩き出す。
が、
「万代くん! またプラモデルの作り方、教えてほしいな♪」
「え、ええっと」
「「「プラモデル!?」」」
みんなの顔が硬直するのが見てとれる。
ええと。会話ってどうしたらいいんだっけ!?
弱い僕にはどう言えばいいのか分からない。
でもうるうるとした瞳でこちらを見つめる彼女を悲しませたくないと思った。
だから、深々と頷いた。
「やった!」
嬉しそうにはしゃぐ彼女を見て、僕は少し嬉しくなった。
「へー」
悔しそうに呟く伊織には気がつかなかった。
僕はいそいそと端にある自分の席に座る。
鞄の中身を見て少し頬が緩む。
「「XXXD-01W<ウイングガンダム>」」
「ん?」
「ドクターJが
「アニメだと悲惨な扱いを受けてきたけど、その人気は不動のもの。ガンダムウイングを象徴する高機動MSだねっ!」
伊織と天野さんが二人して呼びかけてくる。
「ふーん。プラモ詳しいんだ?」
伊織がむすっとした顔で天野さんを睨む。
「む。わたしだってプラモ好きだもの」
二人の空気が悪いのを感じた僕は勇気を振り絞って声を上げる。
「あ、あの……! 仲良くして!」
じーっとにらみ合っていた二人は、徐々に頬を緩め、やがてハイタッチをする。
「モデラーに悪い人はいないね」
「間違いない」
二人は息の合った呼吸で会話を始める。
僕は置いてけぼりで目をパチパチとさせるだけだった。
会話ってどうすればいいのさ……。
まあいいや。
RGのウイングガンダム。初めてだけど、楽しみだな。
ウイングが広がる新解釈もあるけど、これはオミットしてもいいかも。
トリっぽいけど、トリじゃないもの。
戦闘兵器としての美学を追求してもいいんじゃないかな?
うーん。でも格好いいよね。新解釈。
「「どっちがいい!?」」
「ん。新解釈でいくね」
「「???」」
天野さんと伊織は顔を見つめ合わせて、瞬く。
「いや、その……RGのウイングって初めてだから……」
「「ずきゅん!」」
「ず……? な、なに?」
困惑していると、二人の顔が赤くなっていた。
「だ、大丈夫? 二人とも」
「だ、大丈夫だ。問題ない」
「わたしも、ね?」
そんなふうには見えないけど。
どうしたものか。
僕は困って頬を掻くと二人は徐々に普段通りに戻っていく。
天野さんは他の子と話を始めて、伊織は自分の席で髪の毛をくるくるといじりながら手鏡を見ている。
まあ、いいや。
それよりも、このウイングガンダム。どうカスタマイズするかな……。
とりあえずパチ組だよね。
「
「ガンプラオタクなんだよな。自己紹介のときもそんなこと言っていたし」
「でも、今どきプラモデルなんてな」
くすくすと笑う声が聞こえてくる。
「あんた。なに喧嘩売っているの?」
伊織がその男子の前に来て真剣な顔を向ける。
「え。いや……」
「夢中になれるものがない奴なんて、サイテーよ」
「「「すんませんでした!」」」
伊織の手によって簀巻きにされた三バカ。
「で。民也はなんでそんなに嬉しそうなの?」
「だってパッケージデザイン最高じゃない。この展開したウイングも、大型のビームライフルも。やっぱりロマンが詰まっているよね。最高。このシールドも可変機ならではって感じがして……。あっ」
「いいよ。話して」
「ごめん、つっぱして」
僕は穏やかな笑みを浮かべていた伊織を見つめる。
「もうっ! 万代くんってば優しすぎ」
そこにスーパーアイドル天野さんがやってくる。
「え。いや、え?」
「だってあの三人になにも反撃しないんだもの」
「でも、だって……」
「ホラ。庇おうとしている」
天野さんがそう告げると、今度は伊織がため息を吐く。
「あんた、いいもの作っているんだから、気にしないでいいんだよ。あんたのプラモ百万円で売れていたじゃない」
「あれは……。そうだけど……」
「ひゃ、百万!?」
三バカの一人が反応する。
「材料費と手間暇かけたからね」
僕はそう返すとプラモデルに目を向ける。
「でも、その技術を認められたんじゃない」
どんっと背中を叩く伊織。
「そうそう。それに真剣に何かを打ち込んでいる姿、格好いいよ」
「あ、ありがと……」
照れ臭くなり、つい視線を下に向ける。
ウイングガンダムと目が合うと、少し勇気がもてた。
「うん。ありがとう」
僕は視線を上げて伊織と天野さんの顔を見やる。
そして――。
「僕、 【BB01プラモコンテストin東京】に参加するね。部長にも伝えなくちゃ!」
「それでこそ、民也だよ」
「なんの話なの? 万代くん」
「え。あ、うん。プラモデルの祭典。プラモデル業界のトップコンテスト。賞金三百万円の一大イベントだよ」
「すっごーい! わたしも参加したいな♪」
「そ、そんなのずるい。私も参加するぅ~」
「二人ともそんなにプラモデルが好きだったんだ! 嬉しいな~」
「「……ははは」」
なぜか乾いた笑いを浮かべる二人。
三バカはぽかーんとした顔を浮かべていた。
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