第10話 キュウリとハチミツでメロン味
ある昼下がり、干していた布団を取り込もうとベランダを開けた新吉は、奇妙な初老の男がセミのように干し布団につかまっているのを見つけた。
せっかく干した布団にハチミツを垂らしてチューコラ吸っている。
新吉は既に70歳だったのでこの程度のことに驚くほどウブじゃない。
迷わず布団を階下まで落っことした。
下まで降りてみると、蜜吸い男はちょうど片足をひきずりながら隣の棟の角に姿を消したところだった。
ああいう輩は与七と別れて以来、何十人も現れた。
与七の体臭は一部の人間の間でカルト的人気を誇っているようで、微かな残り香を求めて変な連中がたまにあの布団に吸いつくのだ。
それでも新吉にはあの布団を捨てることはできなかった。だって捨てたら少年時代の思い出を否定するようじゃないか。
新吉は再び布団を拾い上げると団地の階段を上り、洗い直して干し直した。
ブーブーうなる洗濯機を見つめながら、こういうことがあるたびに思うことをまた思う。
与七は、おれじゃなく、さっきの変態みたいな与七の体臭マニアの人出会っていたらお互い幸せになれたかもしれない、と。
午後になると両親の墓参りに行こうとしたが、階下ではさっき布団にしがみついていた男が、布団の落ちたあたりの地面の臭いを嗅いでいた。
新吉はそいつに話しかけてみることにした。
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