第9話 ウソの報いは孤独地獄

 てなわけで、与七が新吉の前から姿を消したとき、新吉は実のところホッとしたし、ホッとしたことへの後ろめたさも日を追うごとに薄まり、やがて消えることとなる。


 晴れ空の下に薄っぺら敷布団と洗濯済シーツを干したら、まだシーツからはキュウリの断面の緑くささを凝縮したような異臭がかすかに残っており、白いスーツもこころなしか緑ばんで見える。


好きになる努力から開放された今では、よく毎日こんなモンの上で寝れたもんだと昨日までの自分を信じられなく思うのだった。


 干したて爽やかシーツを取り込むと、自分の体をシーツでくるんで室内にできた陽だまりの中へ飛び込んで、久しぶりに深く眠れた。


 だが与七はどこか遠くから、ずっと新吉を見つめ続けているらしいのだ。


なぜなら、その後の人生で、新吉に初体験の機会が訪れるたびに、どこからともなく与七の回転皿が窓の隙間をかいくぐって現れて、新吉の相手に性交の二度とできないような傷をつけて去っていくのだから。


 おかげで新吉は性経験のないまま年を取り、70になる頃には生涯童貞は確実と思われた。


 新吉はこれを、与七からの復讐だと解釈した。


 与七の純愛に対し、感情を偽って受け入れようとしたことで、結果ブチ壊しにしてしまったことへの。

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